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#228 英国の自然に包まれて、イネーブラーのお仕事


新年の挨拶に「初春」という言葉を使いますが、この寒さで「なぜ春⁉️」と反論したい気持ちを一か月抱える一月。
そして二月半ばを過ぎてもポカポカの春とはまだ言えません。
とは言え風の中に、土の中から芽吹いているそこかしこに、確かに春の気配を感じられるようになってきました。
長い冬の終わりがやっと見えてきたことが、イギリスに住む私にはただただ嬉しいのです。

自然のなかで嬉しい嬉しい、とスキップしている私の前には3人の男性たちが歩いています。


七月に始めたイネーブラーのお仕事のことを書いていました。


あのルーク(仮名)とのお出かけは今でも続いています。加えて今では、一週間以上の学校の休暇期間には、もう一人の男の子ネイト(仮名)も一緒です。
夫と17歳の若者二人は、皆180cm前後なので歩幅が大きいのです。しかも彼らの一歩一歩踏み出す速度には到底追いつかず、私だけいつも10メートル以上後ろをひょっこらひょっこら追いかけることになります。

彼らをお預かりする限り、できるだけ体を使って普段の日とは違うような特別な一日にしてあげたいと思っています。
ですが冬の間のお天気の悪さは、イネーブラーにとってはかなりの苦戦を強いられました。
自閉症という特性に関して言えば、室内で時間をかけて楽しめることに限界があります。
もちろん、我が家に来てもらい過ごすのもありなのですが、私が必要な時のためにビデオを用意していると、夫は「イネーブラーがそんな受け身な時間を与えてどうする?」と言い、甘んじることをしません。
出かけた先で、いつまで続くかわからない雨をどうやり過ごすか、行き先も臨機応変に変えていくのが常です。
晴れた日なら外でできることには困らないのですが、一日雨模様の日には、どこへ行ったらいいのか、一日が天候の変化との戦いのようでした。

やっと春がそこまで来て、アクティビティで困ることのなくなったことが嬉しくて、男性たちにどんなに置いていかれても、知らず知らずスキップをしているこの頃の私です。




先週末はルークと、また一日中ダートムアを歩くことができました。

私たちの、週末のハイキングの様子から、春めいてきたイギリスの大地を感じていただけたらと思います。

人懐っこいポニーがごあいさつ


今来た道を振り返る


ドロドロの道で、足を踏み入れる場所を探しながら、先を行くふたり


ズボッとブーツが半分埋まるほどのぬかるみも多く、岩か沼かわからないような場所で転ばないようにと自戒しつつの一歩一歩でした。



高山植物に癒される


祖母や母がよく言っていたことを思い出します。
「歳取ると、新聞紙一枚につまづくんやよね~」

「んなわけあるか~い!」と思ったものですが、
今ならわかります(笑)

この日は足をいつもより新聞紙一枚分上げて歩くことを意識しました。

地球創成期に地下のマグマが固まり盛り上がって作られたといわれる巨大岩群(Tor)


油断のならない雨雲によって何度かシャワーにも遇う


雪解け水も相まってか、この水の勢い


林業に使われている土地


日本の杉とは違う林はクリスマスツリーと同じものです


北欧の景色を思わせます


ルークは、川や海のように水のある場所が大好きです。
必要なこと以外は自発的に発語することがあまりありませんが、時々スラスラと流暢な文章が出てきます。自分の好きな映画の場面を何度も聴くうちに一語一句憶えたままに、彼の口から飛び出すのです。
自発的な発語にはまったく抑揚がないのに比べ、映画の世界は鮮やかにキャラクターどおりに再現してくれます。

さて、なぜ彼が動く水が好きなのかと言いますと‥‥

これでお分かりになった方はすごいです!


身を乗り出して見入っている様子‥‥


くまのプーさん (Winnie The Pooh) のなかで、プー棒投げ (Poohsticks) という遊びが出てきます。
橋の上、川の上流側から落とした棒を、すかさず反対側で待ち受けて、誰の棒が一番早く現れるかを競うのです。
なにを隠そう、くまのプーさんは数あるディズニー映画のなかでもルークが最も好きな映画。私が川のせせらぎの音に気付く前に、ルークは棒を拾い出しています。

あまり自己主張をしない彼が川のそばから動かなくなるのが、なんとも愛おしく、つい水のあるところを計画に入れてしまう私たちです。


もとは石橋だったのに水圧が真ん中の石を動かしたのでしょうか‥‥


最後に、
手前の木の側面がちょっとモヤっているのがわかりますか?

どうか『目を凝らして』見ていただきたいのですが、
湯気です。
なんともすごい勢いで立ち上がっていたのです。

この瞬間、木という木から気(蒸気)が立ち上がっていて圧巻でした


目の前すべての色や人のムードも変えてしまう太陽光。その『偉大さ』を感じた瞬間は神秘的でもありました。

折しも、noteでお馴染み、Kindle作家の福島太郎さんが「銀山町 妖精綺譚」という新作を完成されたところです。(なんと太っ腹。発売前に全編ここで読めるんです!)

妖精の本家は英国と言われて、一瞬「え?そうなの?」と思いましたが、
この日の木の精気が躍っているような森に居ると、一本一本の木の陰から「クスクス」「ウフフ」と妖精たちの声が聞こえてくるような気がしたのです。
なるほど、本家であったことに何の疑問もなくなりました。

最近、家具の再生やアップサイクルの話題が多かったので、たまには英国の景色が見たいとちょうど太郎さんに言っていただき、
ありがたいことでした。



ルークも私たちと出かけた夜はよく眠ると親御さんがおっしゃいますが、私たちも夜はさも大仕事を終えたような充足感で眠りに着くことができます。

イネーブラーをしていなかったら‥‥
今の私たちが果たして雨の中を完全装備して歩き続けたり、わざわざこんな高い所で下界を眺めながらおむすびを食べただろうか‥‥
ルークの一挙一動に微笑んだ一日が、結果たくさんの歩数になったことを知る、このような一日が今の生活のなかにあるということが、本当に尊く、かけがえのない時間だと思うのです。

この日は私、計一万三千歩歩きました。
いや、夫やルークの万歩計の歩数はもっと信じられないくらい少ないかもなぁ‥‥


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コノエミズ
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