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#206 福祉の分野で舞い込んだイネーブラーというお仕事 【ダートムア編】


最近、夫と一緒に始めたことがあります。
ティーンエイジャーで自閉症を持つ男の子を一日外に連れ出すお仕事です。
1日と言っても、朝10時にお迎えに行き、夕方4時に送り届けるというもので、孫を預かるといった感覚でしょうか。

この支援はイギリス政府からのもので、呼び方に抵抗がありますが、障がい者支援の一環ということになります。支援対象になる家庭では、休日や長い学校休みの間、子どもたちが孤立しないために、週に一度の頻度で使うことができます。


支援の必要な子どもと外出し、親をはじめとする家族にとっても、安心して何かに打ち込める、あるいは束の間の休息を可能にします(enabling)。
その支援者(可能にする人)のことを、enablerと呼びます。エネイブラーと書こうとしましたが(そう聞こえるので)、日本語で既にイネーブラーという言葉があるのを、IT用語辞典に見つけました。

イネーブラーとは、何かを可能にする人や物、能力を引き出す人などの意味を持つ英単語。「可能にする」という意味の動詞 “enable” に「~する人/物」という意味の接尾辞 “-er” を付け加えた語。

https://e-words.jp/w/%E3%82%A4%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%BC.html

あくまでもこれは時給をいただいてやっている仕事であり、政府の機関からこちらの口座の方に直接振り込まれます。ですから親が誰にも依頼しなかったり、あるいは引き受ける人が見つからなければ、支援金は親の手元には残らないという類のものです。せっかくなので、有効活用されたほうがいいですよね。
私のかつての同僚が、このお仕事をしていたのですが、学校勤務を辞めて、長い夏休みがなくなるにあたり、引き継ぎ者として私に白羽の矢を立ててくれました。

この記事の中で私がトランペットを吹くように称賛したあのアンジー(仮名)です。

以前、自立支援の必要な大人のために一緒に外出することが私の仕事だった時期がありました。誠意を持って責任を全うしていましたが、この役目を心から楽しめたことはありませんでした。外で何が起きるかわからないという警戒と、責任を背負うということを、私が必要以上に重く捉えていたのですね。
アンジーが一対一でやっていたこの仕事を、夫と二人、一対二でやるつもりで引き受けました。これはきっと楽しいに違いないと思いました。
夫と私二人だった普段の外出が三人になっただけなのです。しかも私たちは未成年の障がい者サポートのプロ。気負いも不安もありません。

先日のお出かけはこちら、国立公園指定されている広大な荒野です。
ダートムアは数限りないハイキングコースで愛されています。自然のままで道標がないので、登山用コンパスが使えれば、かなり高度なハイキングも楽しめます。ですが、天候が変わりやすく、霧が立ち込めれば辺りが全く見えなくなることも。その上、湿地帯にはBog (ボグ) と呼ばれる底なし沼も存在するという、油断できない側面もあるほど、とにかく広大なのです。


私たちがイネーブリングする男の子はルーク(仮名)。夫も私も以前から知っていました。

このところ予報は毎日雨模様。どしゃ降りになっても怖くない装備を担いで歩きます。この日は家の次男も一緒に‥‥

Hound torという古代からの巨大岩の集合を目指します


時々こんなものを見つけます。

岩陰にひっそりと隠されたレターボックスたち

この自然を利用して始められたのが「レターボックス」と呼ばれる遊びです。これは1854年から始まり、今日まで続いていているもので、最初はトレッキングを楽しんでいる人が、次のトレッカーにメッセージを残そうとしたのが始まり。現在ではスタンプとメッセージノートが岩かげに隠されており、それを探して歩き、スタンプを集めたり、ノートにメッセージを残します。このアクティビティは今でも大変盛んで、維持のために、みんなが大切にサポートし、数千ものレターボックスがダートムーアのいたる所に隠されています。

http://www.homestayengland.net/dartmoor-england-devon.html

上記の引用をさせてもらったのは友人のB&Bのホームページなのですが、引用ページはダートムアの魅力を凝縮して説明してあります。ご興味ある方は是非読んでみてください。

ダートムアの岩(Tor)は地球創成期に地下のマグマが固まり盛り上がって作られた、と書いてあります。なんだか気が遠くなりそう‥‥
この日はいくつも点在する巨大岩群のひとつHound tor (ハウンドトア)からのハイキング。どこをどう歩いても必ず見えるこの岩を目指せば、帰ってこれるというものです。

夏は風が心地よい岩の頂上。冬の風はかなり厳しいのですけど‥‥


どうしてこんなものが‥‥といつ見ても不思議でしょうがない


迫力の大きさです


一面に生い茂ったわらびをかき分けて進むところも


ルークは歩くのがめちゃくちゃ速い。
歩いた距離ではなく、私にとってはヒーヒー言いながら駆け足で追いつこうとするのが一番大変でした。

岩に腰かけて水分補給もしっかりと。

360度のパノラミックビュー。暑くもなく寒くもなく‥‥


この荒野では夏の間だけの放牧はされたようですが、気候が温暖化するに伴って、住居を構えて放牧・農耕で生きる人たちがいたのですね。Medieval village と呼ばれる集落跡を見ることができました。土器の発見により、ここが13世紀のものだといわれています。20~30人が住んでいたであろう村の間取りなどがわかる石壁の内側に寝転んだらとても静か。
昔の人たちの暮しに心を馳せます。
考古学に興味のある方がいらっしゃいますか?ビデオを撮ってますのでよろしければ‥‥(編集というものができず、くっつけただけです💦)


Bilberry (ビルベリー) というブルーベリーの赤ちゃんのような実があります。まだ季節ではないので、ぽつんという感じですが、夏の終わりごろにはジャムが作れるほど実ってくれるはずです。

Bilberry


こんなふうにDrtmoor のハイキングができたのも、イネーブラーというお仕事が舞い込んだおかげだと思います。
ご両親は、ルークが楽しめれば嬉しいけれど、それだけでなく、私たち二人がまず楽しめる外出であってほしい、と言ってくださいました。
私は、こんな自分たちに大切なお子さんを任せてくださるということが、本当にありがたいというか光栄な気持ちなのです。
実際には想像 以上のblessing (祝福) だったのです。誰かを想って楽しませたくて、喜ぶ様子が嬉しい‥‥
冒頭で「孫を預かる感覚」だと書きましたが、まさに孫とお出かけするってこんな気持ちなのかな、っていう喜びがついてきました。

この役目は今の私たち夫婦にとって、とても理想的だと思いました。
夫は高い岩の上をひょいひょい飛び回るタイプで、ルークに至っては「危機感」というものがないので、私はハラハラドキドキしっぱなし。
アスレチックなものにつき合える夫と、行過ぎないよう見張る私。

この絶妙なバランスを保ちつつ、
これからもルークとの幸せを増やしていきたいなと思うのです。


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