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【創作大賞感想】「承認欲求(山木マヒロ様)」レビュー

「創作は生きがいです。生みだす過程に苦痛は伴いますが、完成した時の喜びは格別です。 あなたの心にのこるなにかを作れたら本望です」

山木マヒロ様プロフィールより

タイトルが気になってなんとなく開いた「承認欲求」。
ストーリーの進め方・オチの秀逸さに興味を引かれ、山木さんのページを見に行った。
プロフィールのこの一文を読んで、心から納得した。

創作するべくして書いている人の感覚が凝縮されている。

今回レビューを書かせていただく「承認欲求」は、冒頭の一文で「何があったんだろう?」と、読者に思わせ、一気にその世界に引き込んでいく。

小説家志望の主人公「遼圭」と、クラスメイトの「聡太」「花凛」のやりとりは、一言でいえば「私の投稿をみて!リアクションして!」という、現実社会でも、そこかしこでみかけるありふれた風景だ。

「遼圭」の投稿に積極的にリアクションする「聡太」と、投稿に興味はないが、「遼圭」に気にかけてほしくて、義理で「スキ(いいね)」をつける「花凛」。
そして投稿内容の質よりも、とにかく多くの人に読んでほしい・スキをしてほしい気持ちで一杯の「遼圭」。

SNSでつながり、誰もが発信するようになって久しいこの現代、あなたも共感する心理ではないだろうか?

このどこにでもいる、一見ごく普通の彼らが隠し持つ「狂気」が、物語を読み進めるうちに徐々に明らかになるのだが、「続きを読みたい!」と思わせる手腕がまた上手いのである。

派手な事件の類は一切起こらないのに、先の展開がすごく気になる。
そして読者をごく自然に先へ先へと誘っていくー。

全10話。文字数にして2万文字以上の小説を、思わず一気に読んでしまった。
その時点では何の交流もない、名の知れた作家でもない、見知らぬ人の作品なのに、である。

いわゆるオカルト的なホラーではないが、中盤からの展開は、よく見知った道のはずがいつの間にか裏道に迷い込んだような、ぞわぞわする感覚が味わえる。

そして第一話ラストの狂気の片鱗「もっともっと」が、ラストまで読むことでじわじわ効いてくる。見事だと思った。

幽霊の類や人死、グロテスクな描写はほぼないので、一般的なホラーが苦手な人でも安心して読める。
それでいてしっかり「ホラー小説」として仕上がっている。

あまりに面白かったので、他の作品もいくつか読ませていただいたのだが、本来はショートショートを得意としているようで、どの作品も驚くほどクオリティが高い。

私はショートショートの神様と言われる「星新一」さんの作風が好きで、ほとんどの作品を読んでいるのだが、山木さんの「読みやすくわかりやすい表現」と「奇抜なアイデア」、「起承転結がしっかりした構成」は、星先生に通ずるものがあると感じた。

興味を持った方は是非一度、読んでみてほしい。

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