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マシュマロと不適合

暮れた街でマシュマロの袋片手にただ歩くボクは異質っぽい
演劇を見た帰り道。
芝居の優しさと儚さを噛みしめていた
ふっと笑みがこぼれて、それでいて舞台を見たあと必ずと行っていいほど感じる寂しさがこみあげて、そしてマシュマロを無表情で口に入れた。
それは少し軽快な動き。
それでいてこう動かないといけない、というような謎の義務感に押しつぶされそうな歪な礼儀正しさを感じるもので。
己を形成する言葉が不規則に揺れているような感覚に陥る。
マシュマロをかみくだく。
昨日。
最近離れていたこの甘さを思い出したかのように3袋買った
そしてその甘さに溺れもう2袋を消費していた
マシュマロの甘さはいつだって変わらない。
昔は食欲がないとき、弱っているとき、頭が回らないとき
いつもこの柔らかさに縋っていた
マシュマロが私を暗闇の中での命綱であり暇つぶしだった。

最近実感した事がある私はもう泣くことが上手くできなくなっている、と。

裏通りを歩く
危険思考
瞬間、躓きかける
どこか他人事のような
冷めた表情をしたボクは
顔を少ししかめて体勢を立て直す
手に持っていたマシュマロを一つ道におとした
思考が飛んで数秒
歩くのと変わらぬ重さでマシュマロを拾い指で撫でた
その滑らかな触り心地に何故か寂しくなってしまって
不意に全てどうでも良くなった。
拾ったマシュマロをそのまま口に放り込む。
息。
緩い足取りのまま進む。
本当はきれいなものだけ食していたい
それでもよくわからない危うげな本能がそのままマシュマロを食む。
外れた通りから暗闇を探し彷徨った。
たどり着いた高速道路の高架下。
暗いアスファルト
そしてコンクリートの柱と僅かに差す街灯の明かりを背に立ち止まる。
高架下の世界はどこか朧げで不安になる。
その暗さに安心する
そこで目を閉じてじっと穏やかに深呼吸を繰り返した
上を走る車両の音に動悸と呼吸が乱れる
上手く泣けないのに泣きそうになる
耳を塞いだ
舞台の熱気から知らぬ間にずいぶんと冷えた体が恐怖に震える
音が、怖い
たすけて
知らない音がわたしを壊す
帰らないとって。
思うけど
見慣れた景色を見たくないと想像だけで吐き気を覚えてしまう
理由はわからない。
フラフラと歩き出す。
灯りが目に痛いから耳をふさぎながら
世界から目をそむけて歩いていると道に迷った。
そろそろ時刻が遅くなってきた。
駅を探す。
少しの焦り。
それでいて心地よい。 
その感覚に顔を歪め場違いにマシュマロを食べたくなっていく。
駅の看板が見えた。
あぁ、と感情が冷えるのを感じた。
なぜだか頭が痛くて仕方がない。

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