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【映画レビュー】『ちひろさん』:人知れず傷を抱えた人たちにかすかな光を当ててくれます

 公開の最終日のレイトショーで見た。観てよかった。傷を抱えた(と思っている)自分の境遇とも重なって、切なくなってきたが、ちょっとだけ、これからも生きていけるかもという気持ちもわいてきた。ちょっとだけというのがポイントなのであるが…。 

傷を抱えた人たちの映画

 何かしらの傷を抱えている人たち。
 周りの人と少し違っていて、なじめない、仲間から外れてしまう、うまく折り合えないなど……。その原因は、こだわりが強かったり、貧しかったり、トラウマを抱えていたりなど、いろいろである。この映画に登場する人たちは、そういう人たちだ。
 そういう人たちが、ちひろさんと関わる中で、なんとなく生きる場所を見つけられそうになっていく。「見つけられそうになっていく」というのがポイントで、「見つけられたぞ!」というところまではいかない。でも、もしかしたらこの世界でも生きていけそうかなという気持に少しだけなれる。うーん、この映画はそこがいいなあと、思うのである。

完全に救われないからこそ

 自分自身、諸事情があって、今は相当つらい精神状態に陥っている。周りの人は自分のことを誰一人理解してくれていない。でも、そんなこと望んではいけないのだろうなと思っている。そうなると、ますます出口が見いだせず、このまま生きていけるのだろうか、いや、生きていたとしたも楽しいことはないし、生きることに意味があるのだろうか、ということがしょっちゅう頭に浮かんでくる。
 この映画を見ていたら、そんな自分の状況が重なってしまった。
 もし、人から、「あなたなら大丈夫、やっていける、絶対生きていける」などと言われたら、嘘っぽく感じてしまう。「そう言われても……」「言うのは簡単だよ……」と思ってしまう。実際、そんなことを簡単に言えるほど、私のことを真剣に考えていてくれる人はいない。いや、それで当然なのだ。
 だからこそ、この映画に出てくる、傷を抱えた人たちが、完全に救われてしまったら嘘っぽく思えたことだろう。なんとなく、やっていけるかもという光がかすかに見えてくるくらいであるから、共感できたのだと思う。

ちひろさんは優しい

 主人公のちひろさんは、元風俗嬢という設定であり、その世界に入っていくことになった事情もなんとなくは示されている。そのことは映画のモチーフではあるが、本質的な部分ではない。
 彼女は、なんといっても傷を抱えた人に対して優しい。それが、この映画の素晴らしさである。彼女の優しがが、画面からあふれ出してくる。
 ただ、優しいと言っても、優しい言葉を投げかけたりするのではない。当たり前のように傷のある人たちを受け入れてくれる。それだけだ。積極的に自分から関わってくれるわけではないが、そこにいて、いつでももたれかかることを許してくれる。そんな存在なのだ。
 私にもそんな存在いたらよかったのに、とうらやましくなった。

ぴったりの女優さん

 主人公のちひろさんを演じているのが有村架純さんである。有村さんは、私にとって、出てくるだけで見入ってしまう女優さんだ。演技がうまいとか、きれいだとか、そういうのではないのだが、なぜか惹かれてしまう。
 どうしてかと考えてみた。それは、有村さんが、まさにこの役柄のちひろさんのように、風俗嬢というような境遇であれ、いや、そういう境遇であるからこそ、逆に、簡単には流されないような凛とした強さと透明感を醸し出してくれる、そういう女優さんであるからではないか。
 ちひろさんを演じたのが有村さんでよかった、と私は思った。


 映画を見たら基本的には、パンフレットを買うことにしているのですが、この映画はパンフレットはありませんと、言われました。原作マンガならありますよと、勧められたのですが、そのときは買えませんでした。でも、マンガも読んでみようかなと思っています。

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