MINAMI

観た映画について書きます。 残された人生で見られる作品は限られています。だから、ひとつ…

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観た映画について書きます。 残された人生で見られる作品は限られています。だから、ひとつひとつの作品と自分がどう交わったのかについて、真摯に向き合い、その格闘記録を残したいと思っています。 ときどき自分で作った作品もアップします。ぜひご感想などいただければ嬉しいです。

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  • 映画レビュー集【洋画】

    アメリカ、ヨーロッパなどの映画作品についてかいたものを集めました。

  • 映画レビュー集【日本映画】

    日本映画の作品について書いたものを集めました。

  • 映画レビュー集【超おススメ映画】

    これはぜひ見てほしいと思う映画について書いた文章を集めました。

  • 映画レビュー集【アジア映画】

    韓国、中国、台湾など、アジアの映画作品について書いたものを集めました。

  • 映画にまつわるエッセイ集

    映画作品ではなく、映画という者や、映画を観ることになどについて、書いたものを集めました。

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【映画レビュー】『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』:二人で街を歩くことは最高に楽しい

 気の合う人と散歩をするのは、本当に素敵なこと。  それが、友人でも、恋人でも、家族でもいい。  話をしたいなと思う人、話を聞きたいなと思う人と肩を並べて、気を遣わずに散歩している時間が、人生で一番幸せな時間かもしれない。  この映画を観て改めてそう思った… 朝までしかいられない…というロマンチックな舞台  同じ列車に乗ってたまたま出会った、アメリカの青年ジェシーと、フランス人女性のセリーヌ。  二人は、客席で会話を交わすうちに、意気投合し、ウィーンで途中下車して一緒に時

    • 【映画レビュー】『リリィ・シュシュのすべて』:一筋の希望の光さえ見えない陰鬱な絶望の世界

       岩井俊二監督の作品では「ラブレター」がとても好きだ。悲しい話ではあるけれど、見た後に心がじわーっと温かくなる。  それに対して、この映画はどこまでも陰鬱にさせられる。まさに対極にある。  中学校での「いじめ」を題材としているが、そんな一言ではまったく片づけられない。人間の陰の部分が画面を支配する。  その暗闇の中には美しいものも存在してはいる。しかし、希望の光は最初から最後まで一筋さえも見えなかった。  こんなにも正反対の映画を、一人の監督が生み出し、しかもそれが見事に岩井

      • 【映画レビュー】『生きる』:もう少ししか生きられないと知っても生き方を変えられるだろうか

         主人公は、がんになって自分の余命が長くないと知った、市役所勤めの公務員。彼は、それをきっかけに、事なかれで生きてきた自分の人生を振り返り、残り短い人生を全力を尽くして悔いのないように生きることにする……というストーリーは多くの方がご存じだろう。  自分が主人公と近い年になってこの映画を改めて観てみると、若いときに観たときには気がつかなかったことがいろいろあった。 渡辺の人生は回想シーンで語られていた  最初に驚いたのは、映画の構成だ。  自分の死が遠くないことを知った市

        • 【映画レビュー】『街の上で』:人との距離感の難しさが風景に溶け込んでふわふわ揺れる

           下北沢の街、いいなあ、住んでみたいなあ、と思った。  と同時に、人との人との距離感って難しいなとも思った。近づきすぎるとだめになるし、かといって遠すぎてもつまらないし……  この映画では、人と人との距離感の謎が、街の風景に溶け込んでいるようだ。ゆったり流れるけど、その中にえぐりだされるような痛みもあった… 「こういう距離感のまま付き合っていくことってできへんのかな」  主人公の青は、古着屋で働いている。お客も(おそらく)多くなく、いつも本を読んでいる。  その姿に目をつ

        【映画レビュー】『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』:二人で街を歩くことは最高に楽しい

        • 【映画レビュー】『リリィ・シュシュのすべて』:一筋の希望の光さえ見えない陰鬱な絶望の世界

        • 【映画レビュー】『生きる』:もう少ししか生きられないと知っても生き方を変えられるだろうか

        • 【映画レビュー】『街の上で』:人との距離感の難しさが風景に溶け込んでふわふわ揺れる

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        • 創作シナリオ集
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          【映画レビュー】『夜明けのすべて』:職場での生活をきちんと描いた稀有な作品

           先にこの映画を観た人から、「職場や仕事をきちんと描いているところがいい」という話を聞いた。  もともと見に行きたいと思っていたのだが、そんな映画だったっけ?と思った。  でも、その話を聞いて、ますます興味を引かれて…… 職場は生活の中で大きな位置を占める  確かに、そのとおりだと思った。職場はこの映画の鍵となっている。  仕事は生活の大きな部分を占める。友人とは月に1回しか会わなくても、職場の同僚とは毎日会って、会話も交わす。ときには同じ業務・目標に向かって一緒に力を合

          【映画レビュー】『夜明けのすべて』:職場での生活をきちんと描いた稀有な作品

          【映画レビュー】『ブルーバレンタイン』:「計算されつくした」映画が見せる「計算不能」な愛の苦しみ

          「あんなに愛し合ったのに…」  どこかで聞いたようなセリフだが、この言葉が訴えかけることは、人間が永遠に解決できない問題であるような気がする。  この映画は、ある夫婦の今の日常を映し出すところから始まる。  そして、その男女が「最初に出会ってから今にいたるドラマ」と、「今から破局に向かっていくドラマ」が並行して映し出される。  見ている者は、男女が熱狂的な恋に落ちていく様子と、その二人が通じ合わなくなっていく様子を同時に見せられるのである。  ものすごく計算しつくされた、ある

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          【映画レビュー】『永い言い訳』:何重にも深い人間の愚かさの闇

           「自分のことを大事にしてくれる人を手離してはいけない。失うときは一瞬だから」   妻が事故で死んだときに別の女性と浮気していた主人公の男性が、時間を経て語った悔恨の言葉である。  本当に彼の言うとおりだと思った。だから、今自分のことを思ってくれる人のことをずっと大切にしよう、と私も思った。  いや、でも…… 思ってくれる人を大事にできない  主人公の幸夫が映画の最後のほうで語った「自分のことを大事に思ってくれる人のことを、手放してはいけないと」という言葉。これは、幸夫が

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          【映画レビュー】『水深ゼロメートルから』:露わな二本の脚が投げかけてくるもの

           チラシやポスターを観ると、女子高生たちの二本の脚に目が行く。形がいいとか、すらりとしているとか、そういう美的対象としての脚ではない。生々しくむき出しになった、加工されていない生の肉体としての脚である。  自分がそこにエロスを感じていない自信はない。それは、最初に自白しておく。どこまでがエロスでどこからそうでないかを線引きするのは難しい。  ただ、しかし、この映画は、そんな言い訳など吹き飛ばすように、二本の脚が「女らしさ」の視点で見られてしまうことに挑む。ひと言でいうなら、そ

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          【映画レビュー】『君たちはどう生きるか』:見たまま受け取るべき作品なのでは

           内容についての詳細が伏せられていたので、どんな映画かわからないまま観に行った。ほかの作品でそんなことをすることはまずないが、宮崎駿の最後の作品かもしれないと言われていたので、観ておかなくてはと思った。  しかし、実際に観てみて、どういう作品なのかを説明するのは難しいと感じた。だから、内容を伏せていたわけではないと思うが……  説明するのは難しいけれども、自分の中で整理して何かを語っておかなくてはいけない作品であるとも思った。というわけで、自己満足的な動機なのだが、この作品の

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          【映画レビュー】『ソウルメイト』:二人の関係をなんと呼べばいいのか

           オリジナル版は中国・香港の映画で、この作品は、韓国で作られたリメイク版である。私は先にオリジナル版のほうを観た。  オリジナル版がものすごくよかったので、リメイク版に期待が膨らむ一方で、どんなふうになっているのだろうという不安もあった。  実は、観始めて最初は、オリジナル版の方がいいかなと思ったりもした。しかし、後半はもう泣きっぱなしだった。  ストーリーはわかっていても、演じる人が違えば、異なる人の人生なんだと、改めた思った。おそらく、俳優がすばらしかったからだと思う。そ

          【映画レビュー】『ソウルメイト』:二人の関係をなんと呼べばいいのか

          【映画レビュー】『サイダーハウス・ルール』:傷を抱えた人たちに注がれ続ける温かいまなざし

           1999年の公開時(なんと25年前…)に劇場で観て以来、久々に観直した。  前半の舞台は、産婦人科と孤児院を兼ねる施設。  その産院にやってくるのは、普通に出産をする女性だけではない。望まぬ妊娠をしてしまって中絶をしにくる女性もいる。なかには、出産した子供を育てられずに、孤児として施設に残す場合もある。  さらには、そうした孤児のなかから自分たちの養子にしたい子供を探す夫婦もやってくる。そのたびに、孤児たちはそわそわして、引き取ってくれるのを待ち望み、引き取ってもらえなくて

          【映画レビュー】『サイダーハウス・ルール』:傷を抱えた人たちに注がれ続ける温かいまなざし

          【映画レビュー】『14歳の栞』:自分だけでなく誰もがみんな必死に生きてる

           実在の中学校の、ひとクラスの35人全員を映し出しているドキュメンタリーである。ここ数年、毎年春になると上映されていて、ずっと観たいと思いながら見逃していた。やっと観ることができた。観てよかった!!  私が観たのは平日の晩だったが、映画館は一つも空き席がなく、満員だった。久しぶりに映画館での一体感を感じたような気がした。 35人全員密着って……  「35人全員密着」というキャッチフレーズ。  1クラス全員を取り上げた映画ということだけは知っていた。2時間で全員をとりあげる

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          【映画レビュー】『ストレンジャーザンパラダイス』:ドラマがなくても面白い

           とにかくドラマチックでなくて、何も起こらず、結末がない映画である。一見、虚無的に思えるけれども、出てくる人物たちはみんな愛おしい。そして、本当にかっこいい! なぜなのだろう。  ジム・シャームッシュ監督の独特の世界であり、その後の作品にもずっと貫かれている。  とにかく、これは私の映画に対する固定観念を変えてくれた最初の作品だった。 ドラマがなくても、人物が無口でも  なにもドラマチックなできごとが起こらない。なのにとても面白いのはなぜだろう。  よく考えたら、たいてい

          【映画レビュー】『ストレンジャーザンパラダイス』:ドラマがなくても面白い

          【映画レビュー】『ソウルメイト/七月と安生』:親友と恋人はどちらが大切か

           あなたが、親友か恋人のどちらかを選べと言われたら、どうするだろう。  恋人は、もしかすると今後、家族として一生を共にするパートナーになるかもしれない。また、お互いに一番に考え合うということを、陰に陽に約束している相手だ。性的な欲求やつながりも満たしてくれるかもしれない。そう考えて、多くの人は恋人を選ぶのではないだろうか。親友は大事だけれど、恋人に走るのではないだろうか。  でも、それはどこか打算的な感じがする。まったくもって美しくない。  それに対して、親友にはそんな未来も

          【映画レビュー】『ソウルメイト/七月と安生』:親友と恋人はどちらが大切か

          【映画レビュー】『PERFECT DAYS』:平山は幸せなのだろうか…

           同じことが繰り返される日常。微笑みたくなることも少しあり、たまに心がざわつく出来事もある。それでも変わらず静かな毎日が続いていく……  画面に映し出されるのは、慎ましく、ささやかで、真面目な人生。そこまでは、この作品を見たほとんどの人が共有できるだろう。それほど、この作品の映像のメッセージ性は明確だ。  では、そんな人生をどう思うか? 良い生き方なのか、つまらない生き方なのか? 幸せなのか、不幸なのか? 満足なのか、寂しいのか?    そんな人生論的なことを問う映画ではない

          【映画レビュー】『PERFECT DAYS』:平山は幸せなのだろうか…

          【映画レビュー】『哀れなるものたち』:フェミニズムを超えて恋愛の根源的矛盾を突きつける

           SNS上でいろんな人が絶賛しているけど、なかにはそうでもないという人もいたり、フェミニズム的な視点が貫かれているとか、主演のエマ・ストーンが体当たり演技で凄くてR18になっているとか、とにかく話題になっていた。でも結局どんな映画なのか、よくわからない。そういう映画こそ自分で観る価値があるのでは、これはとにかく観てみなくてはと思って、映画館に足を運んだ。  観る人によって受け取るものが異なる作品  全体を貫いているのは、赤ちゃんの脳を移植された大人の女性が、子どもが大人に

          【映画レビュー】『哀れなるものたち』:フェミニズムを超えて恋愛の根源的矛盾を突きつける