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【映画レビュー】『ケイコ目を澄ませて』:内に秘めることは苦しいけれど気高い!

 見たいと思っていた作品を、ようやく見られました。セリフやストーリーやアクションが溢れる饒舌な映画とは対極にある、抑制されたストイックな映画だと思いました。でも、熱いです。うまく言えませんが、炎を上げる焚火ではなく、静かに熱せられた鉄の塊のような感じです。 

思いを内に秘めるということ

 岸井ゆきのが演じる、女子プロボクサーの主人公は、耳が聞こえず、しゃべることもほとんどできない。そういう人をメインに映し出せば、必然と映画は静寂につつまれる。そして、主人公の思いはほとんど語られることはなく、映画を見る者はその姿から想像するしかない。
 そうして、語られない思いや気持ち、すなわち、内に秘められた思いや気持ちがこの映画の全編から浮き上がってくる。もっと言えば、その気持ちがどういうものかということだけでなく、思いを内に秘めるということ自体を描き出した映画であるような気がする。
 なぜボクシングをするのか、何を求めているのか、周りの人の想像は語られるが、本人の口から聞かされることはない。そして、なぜボクシングから離れようとしているのか、さらには、もう一度ボクシングに向かう気持ちになったのか、はっきりとはわからない。
 すべて、胸の内に秘められている。ストイックだ。それでいて、最初に述べたように、真っ赤になった鉄のような熱も伝わってくる。

抱え込むことはつらいけれども

 思いを言葉にできなかったり、あえて言葉にしなかったりという経験は誰にでもあるだろう。多くの場合は、切ない、苦しいというような感情と結びつくようなことが多いのではないか。
 思いを自分の中に抱え込むことは、つらいことだ。誰かに話せたり、発散できたならどんなにいいことだろう、と思うこともよくある。
 でも、主人公はそういう状態に常に置かれている。もちろん手話を使って会話もできるし、相手がゆっくり話してくれれば、なんとなく何を言おうとしているかは理解できる。コミュニケーションができないわけでは決してない。
 しかし、彼女が自分から周りに積極的に語りかけていく様子は見られない。孤独である。でも、それは決して負けたり、卑屈なったり、つぶされてしまっているのではなく、自らの意志で一匹狼を選択しているように見える。時に揺らぐことはあっても、なんとか踏ん張って闘志を燃やし続けているように見える。
 だからとてもカッコいいのだ。そして熱いのだ。

光と熱が心をとらえる

 それこそ、この映画が私に訴えかけてきたものである。私は、さまざまな思いを胸に抱きながら、独りで生き抜いてこうとしている主人公が、光り輝いて見えた。彼女の内に秘められた熱が私の体を包んだ。
 そうした特別な光と熱こそが、この映画の核となって、心をとらえてくるのではないかと思う。もしかすると、作り手の意図は、そういうところにはなかったのかもしれないが、私はこの映画をそう受け止めた。


 ボクシング映画だというのに、本当に静かで、抑制された作品でした。こういう作品を見たのは久々のような気がします。もしかすると、物足りなく感じる方もいるかもしれませんが、独特の世界が広がる素敵な映画だと思います。

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