【映画レビュー】『凪の憂鬱』:自分も参加したくなる素敵な日常!
「いつか懐かしくなる、素晴らしき平凡な日常」というキャッチフレーズがとてもよくて、惹かれて観に行きました。確かに大きな事件はなく、平凡な日常かもしれませんが、決してつまらない日常ではなく、きらきらと小さな波が輝いていて、心がワクワクするような素敵な日常でした。
どこでもいそうだけれど、いない人たち
特別な人とか、すごい人とか、そういう人は出てこない。みんなどこにでもいるような人だけれど、でも、キャラがすごく立っている。この映画は、ストーリーではなくて、キャラで見せる映画だと思った。
その最たる登場人物が、主人公の凪である。凪はなんとなく脱力系で、文句たれで、ちょっと暗い感じもあるのだが、なぜか構いたくなる存在だなと思った。ちょっかいを出して、どんな反応をするのかを見たくなる。というか、喜ばせたくなる。「なんやそれ」といってニヤッと笑ってほしいと思ってしまう。そういう存在なのである。
自分の周りにもいそうだ。いてもおかしくない。そう思わせるほど身近だ。でも、実際にはいない。
ほかの登場人物もそうである。どこにもいそうで、実際にはいない。強烈な個性を放っているのだ。
作り事なのか本当の出来事なのかわからなくなる
ストーリー的には、特に大きな事件が起きるわけでない。とりわけ、凪たちがなぜかゲートボールをする場面など、ただゲートボールの試合をしている様子がかなり長い時間映し出される。そんなの見るに値するのかと思うかもしれないが、これがおもしろいのである。試合展開にキャラクターの個性が見事にかぶさっていて、作り事なのか、本当の出来事なのか、区別がつかなくなってくる。
このリアルさが、この映画の魅力だといってもいい。映画の中のワクワクする日常が、いつのまにか、本当の出来事のように思えてきてしまうのだ。
強いてドラマチックなところ言えば、凪が振られた恋人と再会する場面くらいだろうか。それとて、決して何かが起きるだけではない。気まずさが流るが、凪の男友達の詩音が、カッコよく救ってくれる。そしてラストにつながっていくのである。
このシーンは素敵なシーンだ。でもやはり、二人の間に何かが起こるわけではなく、凪は詩音を残して自転車で家に帰ってしまう。
つまらない日常なんかじゃない
全体としては脱力系といえばそうかもしれないが、登場人物たちのやり取りは、関西弁で結構テンポが速い。早いけれども、力が抜けていて、優しい気持ちになれる。その微妙なテンポがとても心地よい。
本当に、胸がほんわかしてきて、自分も画面の中に入っていきたいような気持ちになる。これがハードなアクションなどだったら、そういうはいかないが、「どこにでもありそうな」日常だから、なんとなく自分もそのままそこに加わっていけそうな気がするのだ。
でも、実は、画面の中にあるのは、決してどこにでもあるようなつまらない日常ではない。自分の周りの日常をカメラに収めたって、こうはならない。とても個性的な登場人物たちが、(たぶん)自分なりにもがいて、一生懸命絡み合っている。だからこそ、キラキラと輝いているのだと思う。
この作品の間に作られた「高校生編」と「大学生編」がYoutubeで公開されています。特に「大学生編」は、この作品と密接につながっていますので、見ていただくと、楽しさが増すかと思います。「ああ、そういうことなのか」というところもいくつかありまして。もちろん本作だけでも全然大丈夫です。
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