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もう生まれ変わらない君へ

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。

今回のテーマは「#生まれ変わったら」です。

仲間何人かで山登りをしたときの事。気がつくと、A君がいない。皆で探していると、悪びれもなく小さな紙切れを片手に現れた。なんでも神社で恋みくじを引いていたそうだ。中身を見せてもらったけど、あまりに興味がなさすぎたせいかなんて書いてあったのかこれっぽっちも覚えていない。ただあまり、いい内容ではなくA君は苦笑いしていた。チャーミングなやつめ。

おじさんがひとり恋みくじを引いてるだけでそこそこアレなのだが「A君、恋愛とか興味あったんだ」て、私は正直そっちに驚いた。女性の話でキャッキャ言ってるのをみたことがない。今まで付き合っていた彼女だってどんなひとか知らない。(いるんか?)普通の明るい男子だからごはんくらいは誘う事できそうだよな。お金持ちの慶應ボーイ。それでいてボーっとして大らかな性格。すごくいいと思うんだけど、なんか達観しちゃってて色気もつかみどころもない。朴訥とした見た目も相まって、いい人すぎていい人止まりってことにもなりそうだ。この年になるといい人が一番、妙に男気を上から振り翳してくるのはもう平成に置いてきてよ。男女平等でここはひとつお願いします、と思いますがね。

一個気になるとしたら、実家出て一人暮らししないのかな、てことだ。毎日お母さんに作ってもらったお弁当、堂々と会社で食べてるらしいじゃん。40手前のおっさんがさ。ちょっと異様な感じを受ける。同僚からキモイとかイタイとか思われていないか心配になる。

ところがだ。今のお母さんが、産みのお母さんではなく、A君が成人してからA君のお父さんと結婚したのだという事実を知ったのは、A君本人亡きあとだった。大人になってからの付き合いだとわざわざそんな話にならないもんな。突然出来た成人の息子にお弁当を持たせてあげたい新しいお母さんの気持ち。それを毎日会社に持っていく息子の気持ち。モテないの織り込み済みで。遠慮なしの実の母子じゃないからこその繊細な心のやり取りに思いを馳せる。そんなことも知らず、ちょっとキモイんちゃうって思っていた私の浅ましさ。嫌になっちゃう。

遺品の整理を手伝うと、突然死だったため本人としても他人に見られるのが想定外だったであろう品がたくさん出てきた。その中に解脱に関する本がいくつか見つかった。輪廻転生から外れて生まれてこないってやつだっけ。(諸説あるようだ)
おっさんの恋みくじとかママの弁当やべぇとか思ってる低俗な私を尻目に、とっくにこの世での役目を終えたA君は、清らかで静かな涅槃という場所で安らかに佇んでいるのかな。仏教とかよくわらないけど、もう、この素晴らしくて、それでいてとてつもなく苦しいこの世にA君が生まれ変わることは、もしかしてもうないのかな。

文:べみん
編集:真央

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