運用・浸透・継続で仕組みを錆びさせない

台風15号の記録的な暴風の影響により、千葉県では今も停電などから復旧がされていない状況のようです。
被災された方々にお見舞い申し上げます。

先日、一泊二日で、青森県の社会福祉法人様に訪問してきました(写真は全く関係ありません)。
お客様と話をする中で、今後の事業展開のスピード感を意識して、いかに人材育成をしていかなければならないか、という話ができました。
この社会福祉法人様にも人事諸制度として、等級制度(キャリアパス)や人事考課制度が整備され、運用されています。
しかし、法人が期待するほど成果を伴った運用ができているかどうかと問われると、改善の余地が残されている状況でした。

その改善の余地とは、運用・浸透・継続です。
下記図表は、上記法人における人事諸制度の一部を抜粋したものです。

人事諸制度の関係図

法人内の人事諸制度の仕組みとして、

・職務分掌:職種や職層に応じた、業務内容や役割
介護職や看護職などの職種と、主任、係長、課長といった職層ごとの業務内容や役割が明文化されているものです。

・キャリアパス(等級制度):職層ごとに必要な能力やあるべき姿
キャリア(経歴)のパス(道しるべ、進路)と訳されるように、法人理念を実現するために求められる能力やあるべき姿が職層ごとに整理されているものです。
パス(道しるべ、進路)なので、2等級の職員が3等級を目指す際に、どのような能力や姿が求められるか将来像を意識して、知識・技術・人間性を磨くことが出来る。

・人事考課制度:理念を実現するために必要な人材育成の指針
キャリアパス(等級制度)で示された能力やあるべき姿に適格・不適格かを評価する指標です。
あくまでも人材育成のための仕組みで、賃金や賞与を査定する仕組みではありません(人事考課の結果が賃金制度に紐づいているため)。

訪問した社会福祉法人様は、職務分掌と人事考課制度は比較的現場に浸透していましたが、肝心のキャリアパスがほとんど活用されていない状態でした。
経営層やリーダー層にも浸透しておらず、職員一人ひとりの育成について、キャリアパスに沿った、個別の指導育成が出来ていなかったため、等級ごとに自分自身がどういった能力やあるべき姿を求められているのか、あるべき姿に近づくために必要な自己研鑽や能力開発のために何をしなければならないかという目的意識を持った人材が育ちにくい土壌となっていたのです。

それでは、せっかく研修体系を構築し、受講を促しても、職員は何のために学ぶ必要があるのか(目的意識の欠如)、期待像に近づくにはこれで良いのか(自信の喪失)という自身の成長に戸惑いが生まれてしまい、組織に対する信頼やエンゲージメントの低下を招いてしまいます。

そうならないためにも、上記の3つの仕組みをどのように運用・浸透・継続させられるよう活用していけば良いでしょうか。
皆さんの施設の現状と照らし合わせて、確認してみてください。

・職務分掌 × キャリアパス
職層ごとの業務内容とそれに求められる能力やあるべき姿は職員の指導育成には不可欠です。
指導者(エルダー)が感情的に指導育成するのではなく、職務分掌とキャリアパスの2つの指標との乖離(=ギャップ)に対して、適切な指導育成を行うよう心がけましょう。
そのためには、指導者は日頃から職務分掌とキャリアパスを頭に入れて、部下への指導育成をしなければ、ピントがずれた(感情的な)指導育成となってしまいます。
指導育成する際に、キャリアパスを確認しながら、「こういう姿が求められているけど、現状どうかな?」「どうすれば、求められる姿に近づけられるかな?」と投げかけて、意見を引き出してみましょう。

目標管理制度を導入している法人では、職務分掌(業務上必要な能力は何か)とキャリアパス(職層で必要な能力は何か)から目標のレベル感を意識させることも重要です。

・キャリアパス × 人事考課制度
職層ごとに求められる能力やあるべき姿について指標化されたのが人事考課表(シート)です。
例えば、人事考課表に求められる項目が全て「A評価(もしくはそれ以上の評価)」であれば、その等級に求められる能力やあるべき姿をクリアしていると評価でき、昇格(2等級から3等級)することができます。
一方、人事考課表に求められる項目が「B評価(もしくはそれ以下の評価)」であれば、その等級に求められる能力やあるべき姿を満たしていないため、現状維持もしくは降格(3等級から2等級)となる場合があるのです。

社会福祉法人の理念が異なるように、キャリアパス、人事考課表は各法人がオリジナルの内容で作成しています。
そのため、法人職員として現在の組織に属している以上、その組織で求められる能力やあるべき姿に近づく責務を職員は背負っています。
人事考課結果のフィードバックは、職員の成長の振り返りとなりますので、個別面談ではしっかりと時間を割いて話を聞くようにしましょう(最低30分)。

ぜひ、法人理念を実現するための実践者として適格・不適格かをキャリアパスと人事考課制度を用いて、振り返ってみてください。

・職務分掌 × 人事考課制度
職務分掌には職種や職層ごとの業務内容が記載されているということは、キャリアパスに示された求められる能力やあるべき姿を有していないと、全うすることができないということを意味しています。
よくあるケースとして、職員が急に退職してしまったため、4等級の主任職に2等級の中堅職員を昇格させる場合、4等級に求められる能力やあるべき姿を2等級の職員が有しているわけもないので、仕事量や責任の重さに耐えきれず、退職を引き起こしてしまいます。

だからこそ、計画的に人材育成を行い、適格・不適格を見極めながら、適材適所の準備をしておく必要があるのです(主任やリーダー候補の育成)。

このように、人事諸制度のそれぞれの仕組みは単独で機能しているのではなく、それぞれが補完し合いながら、経営理念を実現するための人材を育成するために機能するのです。
だからこそ、組織にある仕組みを運用・浸透・継続さながら、必要に応じてアップデートを繰り返しながら活用しなければ、いつしか仕組みは錆びて、誰からも見向きもされなくなってしまいます。

それは、「コア・マネジメント経営のすすめ」でご紹介した「コア・マネジメント」と呼ぶ「経営理念」「事業計画書」「人事諸制度」の3つの仕組みでも同じことがいえます。

「経営理念」「事業計画書」「人事諸制度」を単独で機能させるのではなく、うまく結びつけ、相乗効果を発揮しながら、運用し、職員一人ひとりに浸透させ、継続して活用することが重要です。
次世代の法人・施設経営を担う人材を育成できるよう、既存職員の定着・育成を促すためにも、人事諸制度を始め、組織の中の仕組みの運用・浸透・継続を意識して活用していきましょう。

管理人



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?