ため息俳句 春愁
過日の琵琶湖周辺を巡った旅で、余呉湖に立ち寄った。琵琶湖の北にある湖である。賤ケ岳によって琵琶湖から隔てられる。
源頼綱の歌に、
帰る雁 声をほにあぐる 時しもあれ 南より吹く 余呉の浦風 (千載集)
などがあり、歌枕の地である。
芭蕉の門下の路通の句にもある、路通は近江蕉門。
鳥共も寝入てゐるか余吾の海
ここは、湖岸の桜が有名で、その桜を見に立ち寄ったのであるが、今年の不順な開花の遅れで、蕾は膨らんでいたが蕾は蕾でしかなかった。
折しも、例年のように桜祭りが開催されていたが、そんなことで訪れる人もまばらで、拍子抜けしたのであった。
ここまでは、先に書いた覚えがある。
訪れた日は、薄曇りでところどころの柳の新緑ばかりが眼に沁みるようであった。
湖面には、水鳥の鳴き声が時折聞こえて、餌を漁って潜っては浮かぶ姿があった。
そんな風景を眺めていたら、なにやら妙な気持ちになってきた。
いい年しておセンチになるなんて、お笑いぐさだと、自分で自分を嗤った。
実は、ここの風景は初めて見ている訳ではなかった。かなり昔、その時は秋であったのだが、そのころのことを少し思い出してしまったのが、いけなかった。
旅先での愁いなんて、とうの昔に無くしてきた感覚のはずなのだ。