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-映画紹介-『激突』 この巨大なタンクローリーに煽られたらどうします?

《乱れ撃ちシネnote VOL.51》

『激突』 スティーヴン・スピルバーグ監督 1971年公開アメリカ


鑑賞日:2023年2月13日 U-next

【Introduction】
昨日の『マッドマックス 怒りのデスロード』は、

西部劇のインディアンに襲撃された幌馬車隊のSF版でした。
今日は巨大なタンクローリーにあおられ運転された恐怖を描いた作品です。
1971年に制作されたスティーヴン・スピルバーグ監督のデビュー作『激突』テレビ映画です。

何度目だろうこの映画を観るのは。
最初に観たのは映画館ではなくテレビ放映(1973年)だったと思う。
この低予算でこんな面白い映画が出来るんだとビックリしました。
今観るとさすがに以前ほど興奮はしません。
ただし物語をどう積み上げればサスペンスが盛り上がるかということをこの作品から学べます。
寂しいアリゾナ砂漠の一本道を運転中に追い抜いた18輪巨大タンクローリーにあおられたセールスマンの恐怖を描いた作品です。

原作はリチャード・マシスンの十数ページの短編小説「Duel」。

マシスン自らが脚本を担当した作品です。

【Story】
セールスマンのデヴィット(デニス・ウィーバー)はお金を回収するために顧客の家まで車を走らせているセールスマンです。
今日先方に会わないと顧客は海外に出かけてしまいます。

昨晩けんかした口うるさい女房からは「今晩母親が食事にくるから必ず6時半までに帰ってください」と釘を刺されてます。
家を出て住宅地を抜けメインストリートを通りハイウェイに乗り砂漠地帯の二車線の田舎路を目的地に向かっています。

二車線しかない狭い砂漠の道路の前を薄汚れた18輪の巨大なタンク・ローリーが道を塞いでノロノロ走っていました。
このままその車のディーゼルの排気ガスに包まれて後ろをのろのろ走っていたら6時半までに自宅に帰ることが出来ません。
デヴィッドはタンクローリーを追い抜きました。

するとタンクローリーが抜き返してきて前方をふさぐんです。
デヴィッドは再び抜き返して距離を広げてからガソリン・スタンドでガソリンを入れてまた走ります。
するといつの間にか姿を現わしたタンクローリーがまたまたデヴィッドをあおります。

抜きつ抜かれつで走っているうちにデヴィッドはタンクローリーが殺意を持っていることを感じます。
タンクローリーの運転手の顔は見えず運転席の窓からは片腕が見えるだけ。
どんな奴なんだ。
危険な目にあいながら恐怖がつのってくるデヴィッド。
ついに車が故障して窮地に立たされます。
すると何と・・・

【Trivia & Topics】
*作者の実体験。
原作はアメリカのミステリー、SF作家のリチャード・マシスン
大学時代ぼくのお気に入り早川書房の“異色作家短編集”シリーズでおなじみの作家でした。
ジョン・F・ケネディが暗殺された1963年11月22日。
マシスンは友人とゴルフをした帰宅中1台のトラックにしつこくあおられました。
その恐怖をTVドラマ化できないかと売り込みますが失敗。
短編小説としてプレイボーイ誌に発表するとユニバーサルがテレビ映画を企画しました。

その企画に応募したスピルバーグはプロデューサーから「君の作品を見せてくれ」と言われ、その年に監督した「刑事コロンボ」シリーズ第3作「高層の死角」を提出して採用が決まりました。
シナリオはマシスンが担当して74分のテレビ映画が完成しました。

*過酷な撮影秘話。
・450,000ドルという超低予算。

・撮影期間16日。

・編集作業から放送まで3週間。

スピルバーグは絵コンテを作らず、
カリフォルニア州の砂漠の地図に撮影ポイントを書き込んだものだけで撮影を進めました。

*ユニバーサルとの闘い。
マシスンの脚本には強く触発されましたがセリフが多すぎると感じた
スピルバーグはセリフの50%をカットしました。
沈黙こそが観客のイマジネーションを刺激する絶対的な要素だと確信していたからです。
ユニバーサルは猛反対しましたがスピルバーグは断固譲らず見事に勝利。
もし自分に最終的な編集権があればもっとセリフを削っていたと本人は語っています。
十数ページにも満たない自分の短編を超低予算で一級の恐怖映画に仕上げた新人監督スティーヴン・スピルバーグ君の才能にマシスンはビックリしました。

*テレビ放映秘話。
当時日本教育テレビ(現・テレビ朝日)の『日曜洋画劇場』の担当者がアメリカの業界誌『バラエティ』で小さな記事を見つけました。
「カリフォルニア州立大学を出たての25歳の若者がユニバーサル映画でテレビ用の映画を作っている。内容は自動車の追いかけっこ。ABCの『Movie of the Weekend』枠で放送予定」という記事です。
興味を持った担当者はユニバーサルに「出来上がったらすぐプリントを送って欲しい」と連絡しました。
送られてきた16ミリを観て担当者は購入を決めました。購入金額は『日曜洋画劇場』の中でも下から何番目ぐらいの低価格だったそうです。

テレビ放映の準備中ユニバーサル日本支社から「松竹富士が劇場でかけたいのでそちらが購入した15倍の金額で売って下さい」と言われ断りましたが、その後「74分だと短すぎて『日曜洋画劇場』には掛けられないから、スピルバーグ監督に編集させて90分以上にします。放映権料は元のまま。ただしテレビ放映の前に劇場にかけます。劇場公開後できるだけ早くテレビ放映できるようにします」というユニバーサル日本支社からの申し出に承諾しました。

当時の担当者はスピルバーグが大監督になるなど夢にも思っていませんでした。
彼は1974年にユニバーサルに出張したときにインタナショナル部門の副社長に「スピルバーグに会いたい」と告げると副社長はスピルバーグを知りませんでした。
秘書に確認をとると「スピルバーグは海で撮影しています」と言われ、副社長から「現場に行くならアレンジします」と言われましたが経費がかかるので断りました。
スピルバーグが海で撮影していたのは『ジョーズ』という新作でした。

*スクリーンでの公開。
1973年第1回アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭で上映してグランプリを受賞しました。

*デヴィッドが闘った相手。
あおり運転で恐怖体験をしたデヴィッドが闘ったのは運転手ではなくタンクローリー自身です。タンクローリーを得体のしれない怪物に見えるようにスピルバーグは演出しました。

*劇場版。
74分のTVムービーだった『激突!』は1973年に90分の劇場用映画として海外配給されました。
主人公の車がタンクローリーに押されて列車に跳ねられそうになる踏切のシーンとスクールバスを巡って対決するシーン等が追加撮影されました。
現在サブスクで配信されているのは90分ヴァージョンです。

*その後の怪物。
18輪のタンクローリーは「ピータービルト281」。タイヤはブリヂストン製。撮影用には3台揃えました。

ピータービルト281

*本作品への監督の想い。
スピルバーグは『激突!』は陸上の『ジョーズ』でぼくが監督した初のサイレント映画ですと述べています。
「今でも年に最低2回は観ているよ。自分がこの作品で何をやったかを忘れないためにね」とも語っています。

*その後の怪物(2009年の新聞記事より)。
1971年に制作された映画『DUEL』(邦題『激突』)。スティーヴン・スピルバーグ監督の出世作に登場した大型タンクローリーが、このほど米国のオークションに出品された。
この『激突』に登場する大型タンクローリーの車名は、米国トラック大手、ピータービルト社製の『ピータービルト281』(1960年式)。
『激突』の撮影現場では3台のピータービルト281が用意されたといわれ、そのうちの1台が、このほどセントルイスで開催されたオークションに出品された。
同車は映画撮影後、消息がわからなくなっていたが、2005年にロサンゼルス近郊で発見。NTC350エンジンはオーバーホールされ、電装系やシャシーもリビルドされた。
くすんだこげ茶色の車体は、『激突』に起用された当時のままで、不気味な存在感を放つ。
オークションは4万4000ドル(約392万円)からスタート。相場より2万ドル(約178万円)高いということもあり、落札には至らなかったが、その威容は来場者の人目を引いた。

さてこのタンクローリーは今はどこに・・・

明日はあまりぼくは見かけないデニス・ウィーバーという役者さん。
とんでもない映画にとんでもない役で出演していたのでそちらを観たいと思います。

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