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【檀一雄全集を読む】第一巻「孤独者」

 昭和十六年、寛城子に引き籠った檀一雄を訪ねて秋沢三郎がやってくる。

 昭和十二年、太宰治との溺れ合うような蕩尽の日々を経て召集令状を受け取るまでの檀は秋沢邸で書けない小説を書きあぐねていた。秋沢の酒を飲み、夕方になると太宰や緑川貢らと庭で相撲をとる日々。そんな日々にふと見た、草むしりに没頭しやがて立ち上がった秋沢の目は恐ろしいほど不吉な孤独者のそれだった。

 秋沢は持参したウォッカを檀と飲みながら、北京で見た日本人のスケールの小ささを嘆く。そして「小説を書け」と檀を叱号する。だが檀は小説などは廃業してヤブロニーで蜜蜂を飼うのだと宣言する。酔っ払って怒鳴り合う二人の火花が散るような交流がなんだか羨ましい。最後の秋沢の言葉もいい。


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