【読書】岡崎武志『駄目も目である 木山捷平小説集』を読んだ
巻末の解説で編者が書いている通り、本書は木山捷平の全貌を表すというよりも、生活も仕事も安定した時期の身辺小説を中心にして編まれている。
そのため内容としては本当に些細な物や人についての思い出や、散歩や貸家探し、買い物といった徘徊がほとんどで、どの小説も同じような内容と言ってしまえば言えるかもしれない。
ただその同じような話にはなんとも言えない滋味があって、それは飄々とした文体のせいなのか、木山捷平その人のキャラクターのせいなのか、わからないが、なんでもない生活にある些細な思考や感情の揺れを自然に書いているところに、事大主義になりやすい小説という表現の中に光る稀有なものがあるような気がする。
それが編者も「不思議なほど何度でも繰り返し読める」と書くような魅力に繋がっているのだと思う。人間を書くと言って人間の暗部ばかりを仰々しく書くことだけが文学ではないのだ。読み終えてもまたふとした時に開く時があるような気がする。これはそういう本だと思う。