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Delusion rocking on vo288



扉を開ければ、轟音が轟いておりました。既にイベントが始まっていたのです。私は想像以上に迷っていたようでした。即座に受付でチケットを渡し、場内に駆け足で向かいました。


久しぶりの娑婆の音。私は興奮していたのです。


だけども、入ってプレイしてるバンドを見ていると、とても急速に萎えていく自分を感じました。裾の広いクラシカルなジーンズを履いたギタリストはこれでもかというオナニープレイをしていてすぐに吐気と眩暈がしてきました。ドラマーの方ははとても合わせにくそうで、入るタイミングを失い、ずっとテンポキープをしながら機を伺っているようにも見えます。


でもノリに乗っているギタリストはおかまいなしに80年代的な内股で頭を振り、気持ち悪い顔でチョーキングする所で私は食傷気味になり、外に出てしまいました。受付で酒を一本買い、その横にある喫煙所で一息入れることにします。


一体原邦夫は私に何の恨みがあるのか、と考えました。

あんな酷い演奏をわざわざ聞かされるなんて罰ゲーム以外の何物でもない。


即興のイベントと聞いていたのに、話が違うじゃないか、と私はやや怒りが込み上げてきました。

あれはただの公開オナニーだ。いや、ギターは多分上手いのだろうが、即興を1mmも理解してないテクニックをひけらかすだけの演奏などただひたすらに気持ち悪いだけなのだ。胸焼けまでしてきている。

もう色々イケてなさすぎて溜息しかでない有様でした。


帰ろうかな、そんな思いさえ頭によぎります。


しばらくして気持ちの悪いギターの音が止まりました。演奏時間が終わったのでしょう。ふと自分の足下を見ると、ハイネケンが5、6本転がっていました。私は少し酔ったように思います。


まぁ、せっかくだし、次のバンドを見て帰ろう。

そう思い、私はもう1本ハイネケンを買い、ふらふらと場内に戻りました。


ちらほらと疎らな客の間を縫い、壁際にもたれ、ハイネケンをくぴりと飲みながら次のバンドを待ちます。


ざわざわと客が集まりだしました。


開演時間が近いのでしょう。


演者が姿を現します。


背の高い、薄いコートを羽織った男。

ニット帽を被った小柄な女。

マッシュ頭の若い男。


ふぅむ。さっきより随分と印象がマシだ。


コートを羽織った男は、小さめのスツールに腰かけ、小さめのキーボードを膝元に置き、縁の大きな眼鏡をかけました。


、、、。何かとても知的な雰囲気を醸しています。さっきまでのを80年代ハードロックとすると、同じ80年代でもウェイヴ系の感じ、あるいは外国のモノクロの冬。枯葉でも演奏しそうな雰囲気があります。


ドラムは私の場所からはよく見えませんでしたが、ギタリストはとんでもない量のエフェクトを拡げていました。ははぁ、先程のギタリストとは全く違うタイプだ。自信はないが腕に覚えがありそうな感じ、、、


と、唐突に音が鳴り始めます。


マッシュ頭はまだ準備しています。


しかしそれを特に気にしない様子で先程のインテリ眼鏡が、わけのわからない「音」を鳴らしはじめました。


そう、わけのわからない「音」を


スルッとドラムが支えはじめます。


とても、自然に




おっ、おっ、おっおっ


をっをっを


身体が、揺れだしました





薄い 薄い きみどり


淡くかがやく あわ🫧



はばたく 鳥 一点をあがる羽


木々 木々 木々 


ちりぢり 散り散り


くずれて ちりになって 灰になって


とける とける


あなたは あなたは


いきのこり ただ いきのこり


踏み鳴らそう 踏み鳴らそう


地面や喜びを ふみつけよう


ときどき、ときどき


背中に ささる ナイフ


あくい あくい とりで




あなたは あなたは




いきのこり ただの いきのこり




のろ のろのろ ゆっくり、り、り


わたしやあなた とらえどころはない


いきのこり いきのこった


遠くの果てのあかむらさき


いのちはてのくうきょ


おわりに おわりに


線路に石をのせよう 線路に石を


みんなでのせよう


おわりに




ポカんと口を開けて見ていたら、演奏はすぐに終わってしまいました。いや、時計をみたらちゃんと時間は過ぎていた、、、


「即興」をやっていました。私の血は騒ぎました。


興奮冷めやらぬままライヴハウスを飛び出し、階段を駆け上がり、迷いながらも精肉屋から脱出し、すぐさまレポートを書こうとその近辺にあったコワーキングスペースに入り原稿を書き殴りました。


それからしばらくして粗方原稿が出来たとき、自分の腹が減っていることにようやく気付きました。随分と時間は経っていた。私は近くのコンビニで適当な食べ物を買い、家へ帰ることにしました。


私は車の中で録音しておいた先程の演奏を流しました。もちろんハードロックはすぐに削除しております。


ふぅむ。落ち着いて音源を聴くと、先程のような凄みは感じない。


つまり、ライヴのほうがいいバンドのようです。素晴らしい。逆より、遥かにいいことでしょう。


私はバンド名を覚えようとしたとき、ふと、ある記憶が蘇りました。


あのインテリ眼鏡の髭もじゃ。


彼は歌っていたとき見覚えのある歯並びをしていた、、、




、、、あれは、ブルセラショップ「橘」の店主だ。



全然インテリじゃない!





いかがだったでしょうか。これが今回の私、八袋光年の妄想レポです。実際に行ったように想像しながら獄中で楽しむのが私の最近の趣味なのです。


これがあなた方に届いてる頃、私は刑務所で執拗なイジメにあっていることでしょう。


おまえらがにくい


あんぜんであんしんしながらせいかつしてるおまえらがにくい


いつかそとにでたらおぼえておけ


おまえがにくい


おまえも おまえも


にくいにくいにくい


にくい



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