ショートエッセイ「ビニール袋のお米」
一人暮らしにようやく慣れ始めたくらいの時のことです。
お米がなくなったので、大学の帰りにスーパーに寄りました。
どれにしようかなと棚を眺めていると、
エプロンをつけたおばちゃんが話しかけてきました。
「これ、食べてごらん」
試食用の小さいおにぎりをくれました。
「どう?美味しい?」
自信満々に聞いてきます。
正直いつも食べていたお米との違いは分からなかったですが、美味しいことは確かだったので、
「美味しいですね、買います。」
と言い、5キロを一袋貰いました。
レジに向かうためおばちゃんに別れを告げようとした時、
「あなた一人暮らししてるんでしょ。
一人暮らしの人にはおまけでこれあげてるのよ」
おばちゃんは少し声を小さくして、ビニール袋に入ったお米をくれました。
「2合分入ってるから、帰ったらたべてね」
ちょっと得をした気持ちと、何よりおばちゃんの心遣いが嬉しく、
ぼくは早足で家に帰り、すぐにご飯を炊きました。
30分後、ピーピーという炊飯器の音と同時に蓋を開けると、何か違和感がありました。
水の量を間違えてしまっていたのです。
明らかに水分が多くベチャッとしたご飯を見て、
おばちゃんの好意を台無しにしてしまった悔しさから涙が溢れてきます。
茶碗にご飯をよそっている間も涙は止まりません。
結局、涙でちょうどいい塩気のついたお粥を一人で黙々と食べました。
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