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身も心も蝕む最悪の呪い映画『呪詛』

https://www.netflix.com/jp/title/81599888

今年に入って色々とホラー映画を観まくっていたらすっかりホラー耐性がついてしまった。
それでもこの『呪詛』に関しては本当にメンタルに堪えるものがあった。

禁足地に足を踏み入れて呪いを受ける―ありがちな設定をより悪辣にしているのは、足を踏み入れた意思のないお腹の子どもが呪いを受けている部分にある。

主役だけが痛い目に遭うなら自業自得と言えるところも、その身代わりに幼い少女が呪いによる痛みと苦しみに喘ぐ展開は筆舌に尽くしがたい惨さだ。


今作はアジアンホラーで、ジャパニーズホラーとは一線を画す。

陰湿だが見た目にはっきりとグロテスクさが表れるのがアジアンホラーの特徴。
精神、傷、病…呪いの種類は厭わない。祟りの前では人間とは脆い心を宿しただけのただの肉塊に過ぎないのだと思い知らされる。

POV形式はホラー映像界隈で流行りの手法ではあるが、常に特別な効果を発揮しているという印象は受けなかった。冷静なツッコミを入れていいなら、記録用とは言え我が子が惨事に見舞われる度にカメラを回す行動には眉をひそめるべきである。これについては、日常に直結したリアリティ表現の追求と、「映像による呪いの拡散」という『リング』をオマージュしたかのようなオチに繋げるための背骨がPOVだったのだと言えよう。
冒頭から画面の向こう側に語りかけるスタイルは提示されていたものの、それが第四の壁を破る入れ子構造であったと知らされた時の背筋の寒くなる感覚は忘れられない。


このような構成のトリッキーさもこの作品の大きな特徴だが、何と言ってもとにかく恐怖演出とその微細に渡るホラー表現が凄まじい。

山奥の閉鎖的な村に伝わる儀式は少し不気味ではあるが、それはあくまで雰囲気だけで、よくある土着的な文化のように描かれる。
しかし、その後に主人公たちが本来は踏み入ることの出来ない秘密の儀式や禁足地にカメラを向けることで、これから起こる地獄の展開をこれでもかと観客に想像させてくれる。

生贄と呪術、祟り。これらと共存する村人の表情は傀儡のようであり、未知の存在と板挟みをしてくることで狂気を増幅させているのだ。


主人公に肩入れするかは観客それぞれだと思うが、とにかく幼い子どもが残酷な仕打ちを受ける様はとても心が削られる。同じ年の頃の子どもがいる親など、きっと見ていられないだろう。

そしてこの仕打ちは、全て母である主人公が犯した禁忌が元であるというのもずっと作中に居心地が悪い空気を流し続けている。「お前のせいだ」と詰ることは簡単だが、そうして振り上げた拳をどこに下せばよいか分からなくなるくらい、主人公が孤立する後半戦からは絶望も加速していく。

特にパイナップルを食べさせるくだり。色々な意見があって然るべきシーンだが、日に日に見た目からも重い状態になっていく我が子を飲まず食わずのまま看病出来る親というのもそうそういないのではないか。
この半端な優しさが更に自らの首を絞めることになることは想像に難くないが、ここからくる「何をしても助からないかもしれない」という絶望感は数あるホラー映画の中でも飛びぬけていると思う。


そして究極のラスト。観客を道連れに覚悟を決めた母も身を捧げ、呪いを終わらせることになる。
ここで出てくる”決して見てはいけない顔”はホラー映画において有耶無耶にされるパターンも多いが、これはしっかりと出てくる上、その恐ろしさも尋常ではない。

”決して見てはいけない顔”という高すぎるハードルを如何に乗りこえるかは制作でも議論されたことだろう。本当に一度見たら忘れることができないほどのインパクトだ。


これでもかというくらいアジアンホラーの厭さをふんだんに詰め込み、人間の心の弱さをグサグサと観客の心にも突き刺さる表現で巧みに描いているのがこの『呪詛』である。
落ち込んでいる時にはおすすめできないレベルの精神負担があるが、エグめのホラーを求めている人にはさぞ旨みがあったことだろうと思う。

幸せを感じるような場面の裏から呪いは常にこちらを覗いており、どんな者にも平等に躊躇うことなくその猛威を揮うのだ。

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