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蝶のしるし

中華圏で書かれた本を読みたい、中国語の音声を聞きたい。私には、そういう時が定期的に来る。それで今回、本屋さんの外国文学の棚で手に取ってみた本が「蝶のしるし」だった。
台湾の女性作家の短編集を集めた小説ということで隙間時間に読みやすそうだったのと、表紙の絵が綺麗だなと思って買うことにした。

私がいいなと思ったのは、陳雪さんの「蝶のしるし」
主人公は同性愛者の女性。
彼女は、自分をおさえて男性と結婚して子供も産んで、物質的には不足がない生活をしている。でも素の自分を出せないのがしんどいようで、自分をさらけ出せる相手を見つけたときに彼女の心が揺れ始める。
性的思考に限らず、人は多かれ少なかれ自分を押さえながら生きているわけで、素の自分を出せる相手が突然現れたら、今の生活を捨ててそっちに行こうと思うのだろうか。私は、夫と子供を愛しているけれど、もっと愛したい人が出てくるって、どんな感じなんだろう。もしそうなったらどうなるんだろう。
そんなことを想像して、息苦しくなりながら、読んだ。
面白い小説だった。

もう一つ、印象に残ったのはラムル・パカウヤンさんの「私のvuvu」
少数民族の少女とおばあちゃんとのかかわりの話。
台湾ならではだと思うのだが、国語(=中国語の普通話)、台湾語、民族の言葉、日本語が会話に混在するのが面白い。
少女が、おばあちゃんとの意思疎通に苦労するところが興味深かった。
私の祖父母(大阪弁話者)と私の長女4歳(標準語話者)は、年齢的なこともあってほとんど意思疎通できないのだが、そんな比ではないのだろうなと想像した。
日本に暮らす日本人であれば、祖母と孫で会話ができない状態はなかなか発生しない。それほど違う言語を操る人が同じ社会にいるということは、日本(の関東地方)に住んでいるとあまり感じない。台湾社会の多様性を感じる。


写真は、2012年の台湾旅行で南投県の九族文化村に行ったときのもので、これは離島で暮らすタオ族の船。さーっと見て回ってそれなりに楽しめたけれど、再訪の機会があれば、ガイド付きでじっくり見てみたいな。

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