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暇と退屈の倫理学

過去の哲学者たちの思想を引用しながら、
暇のなかでいかに生きるべきか、退屈とどう向き合うべきか
という問いに向きあう本だ。
途中難解な箇所もあったが、何とか読了し理解できたと思う。
私が特に面白かったと思う部分を中心にまとめてみる。

第二章 暇と退屈の系譜学 人間はいつから退屈しているのか

遊動生活を送っていた人間が定住生活をするようになった。歴史の授業では食糧生産が始まったから定住するようになったと習ったかもしれない。しかし事実は逆で、気候変動で採集生活が立ち行かなくなったのでやむを得ず定住するようになったから食糧生産が始まった、ということらしい。
遊動生活では移動のたびに周囲の安全を確認して新しい環境に適応していた。ところが定住生活ではその必要がなくなり、脳の余裕ができた。自分の能力を発揮する場がないので、何もしないと退屈してしまう。そこで退屈から逃れるために、何かしないといけなくなった。それが文明や文化を発展させていった。
そして人類の歴史と同様に、個々の人間一人一人も、生きていく上で退屈を回避する必要がある。(要約ここまで)

ということで、定住生活をしている現代人は退屈と向き合わないといけない。生活には気晴らしが必要だ。
私が子どもを育てていて思うのは、「何もすることがなくて暇だ」という場面にはなかなか遭遇しないこと。生まれ落ちた時から授乳、おむつ替え、お風呂、予防接種や検診や通院などがあり、大きくなってからは食事の支度や片づけ、トイトレ、遊び相手などなど、書いたら一言で済むけど実際はものすごく時間がかかる雑事で毎日が終わる。しかも子供の公園遊びに付き合っている時などは暇ではないが退屈だ。
ネガティブな事ばかり書いたが、私の人生に子育てがあって良かったと思っている。その理由のひとつに、社会から要請されているからという要因もあるかもしれない(自分の子供が可愛いからという理由は当然あるが、ここでは一旦おいておく)。邪推かもしれないが、人生の壮大な暇を埋めるために、次世代を育てるという課題を社会全体が個々人に課しているのではないか。家父長制や家制度、「ある程度の年齢になったら結婚して子供を産むもんだ」という社会的通念の醸成などにより、私たちは幼いころから、将来は結婚してパパ・ママになるんだと思っている。
学業や芸事の発展に一生を捧げて結婚や出産はしませんでしたという人生もままあるが、スタンダードじゃないとされる場面も多いだろう。
人々が子供を産み育てる背景に何があるのか。正解を見つけるのは困難だろう。
仕事や子育てやそのほか自分がやりたいと思ってやってきたことも、実は自分自身の欲求ではなく、社会の仕組みによってそう思わされているだけかもしれない。だとしても悲観する必要はなく、退屈を回避して楽しく生きるのが現実解だ。
この本には子育ての話は一切でてこないが、自分自身のことを連想した。

第六章 暇と退屈の人間学 トカゲの世界をのぞくことは可能か

すべての生物は別々の時間と空間を生きており、その生物にとっての世界は「環世界」と呼ばれている。一つの環世界に<とりさらわれ>ていれば退屈はしない。
人間は、比較的容易に「環世界」を行き来できる。だから退屈しやすい。
動物も、人間ほどではないが「環世界」を行き来する能力を持つので、退屈している可能性はある。(要約ここまで)

この章ではダニの世界観が詳細に記述されている。ダニの生態に全く興味がない私でも、普通に面白いと感じた。そして、自分と同じ空間にいる生物が、私とは違う「環世界」を生きているのだという仮説は興味深い。人間相手にも同じことが言えるので、相手にイラっとしたら「生きている世界が違うんだな」と思うことでスルーできそうだ。

結論

暇や退屈を回避するためにどうすればいいか。
・贅沢を取り戻すこと。
・<動物になること>すなわち、何かにとりさらわれている状態になること。人間の場合は思考にとりさらわれること。
ただし、この結論だけ読んで論述することに意味はない。本を通読し、自分なりに暇と退屈というテーマの受け止め方を涵養していくことが大切だ。
なぜなら、理解する過程の重要性を無視してしまうと、与えられた情報の奴隷になってしまうからだ。何かを理解する術というのは生きる術である。(要約ここまで)

現代人の人生が退屈とセットになっているのであれば、退屈を逃れるためにあくせく働くよりも、ほどほどに働いて子育てや食や旅を楽しむ人生を送りたいと私は思う。この本でいうところの贅沢をしたい。
何かを楽しむためにはそのための訓練が必要だとこの本には書かれている。例えば旅に出る前にその地の歴史や文化を知っておくことも楽しみを増してくれるだろう。そうすれば一つ一つのイベントを、より深く丁寧に味わえるようになりそうだ。まずは次の旅行先について調べてみよう。
本を読んだ後にこうやって感想をまとめるのも理解を助けてくれるし思考を促してくれる。一冊の本から色々なことを学び、おまけに現実の生活も良くできるのだとしたら、読書とはなんとコスパがいい趣味なのか。

この本を読んで現実の行動にどう落とし込むかは、読んだ人の数だけあるはずだ。同じ本を読んだ人と感想を語り合いたい。(コメントお待ちしています)


「暇と退屈の倫理学」は1°の本棚というショップで出会いました。「どんな本が届くかは到着してからのお楽しみ」ということで楽しみに待っていたら、見たことも聞いたこともない本が届きました。難しそうな題名と変わった絵を見て、読み切れるのかちょこっと不安になりましたが杞憂でした。


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