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水の空の物語 第2章 第2話

 高校からの帰り道の途中に、図書館がある。その図書館の広場に、風花たちはよく寄り道した。

 石畳に赤いベンチ、見渡す限りの樹木と、庭園のような広場で、お気に入りだ。

 風花たちは駐車場横のベンチに、並んですわっていた。
 欅の葉を眺めながら、風花は夏澄たちのことを想い出していた。

 昨日、夏澄が記憶は消さないといったとき、風花はぼんやりしてしまった。

 すぐに意味を理解できなかった。

 夏澄の言葉を聞いたスーフィアは無表情になり、飛雨はかなり戸惑った顔をした。だが、結局許してくれた。

 風花にとっては夢のような話だった。

 急に体の力が抜けて、動けなくなったくらいだ。

 昨日は、夏澄ともっと話したかった。聞きたいことがたくさんあった。

 だが、あまり話せなかった。辺りがすっかり暗くなっていたので、家に帰るように勧められたからだ。

 その代わり、今日、夏澄たちが住処としている霊泉の前で、逢うことになっている。

 風が吹いて、欅の木がざわざわ音を立てた。風花たちの制服のスカーフも揺れる。

 木漏れ日が石畳の上を踊った。
 そんな光は夏澄たちの霊力の光を連想させた。

 顔がほころんでくる。風花はあわてて表情をもどした。

「風ちゃん、なにか、いいことあったでしょー」

 気がつくと、ひろあが風花をじっと見ていた。

「え、……な、な、なんで?! なにもないよ」
 びくっとして、風花は口ごもる。

 夏澄たちのことは、いくらひろあたちでも話せない。

 夏澄のきらきらした笑顔が想い出される。

 わたしね、ふしぎな体験をしたの。
 優しい水の精霊さんに逢ったの。

 夏澄くんの故郷は夢の世界なの。

 この世界に動物を護ってくれる場所があったなんて、信じられる? すっごいよね。きらきらだよね。

 いいたいが、絶対に話したらいけない。


 

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