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水の空の物語 第3章 第8話

 少女は中学生くらいだった。

 かわいらしいという表現がぴったりの子だ。かなり華奢で、長い髪と白いワンピースがよく似合う。

 大事そうに、なにかを抱いているが、枝葉に隠れて見えない。

 少女はじっと風花を見ていた。
 なにかを探るように、頭から足の先まで風花を見る。

 だんだんと、瞳に怯えの色が浮かぶ。急に向きを変えて駆け出し、山の中に消えていった。

「どうした?」

「今、女の子がいたの、わたしたちの様子を窺ってた」

 飛雨は頬に緊張を走らせる。

「どんな奴?」
「中学生くらいの子。大人しそうで、白いワンピースの」

「ワンピースって、あのひらひらした? この陽気に薄着で? 夢でも見たんじゃないか?」

「そんなことないよ」

「ここは人家だってないんだぞ。そういう場所を選んだんだから」
「でも……」

「夏澄が見られたんじゃないから、どっちでもいい。もう行こう。夏澄が待ってる」

 飛雨は、両手で風花を持ちあげた。
 そのまま、軽々と肩に乗せる。

 ……え?
 米俵でも運ぶように、肩に担いだのだ。

 ……ええ?!

 ぐんと、体が宙に浮く。風が唸りをあげた。

 飛雨が木々を越え、高く跳躍したからだ。林を飛び越えたあと、岩場に急降下する。落下の感覚に、お腹の辺りが悲鳴をあげた。

 風花は金切り声をあげていた。



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