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水の空の物語 第3章 第1話

第三章 蓮峯山の小さな楽土


 ……日本の洪水伝説。

 洪水伝説とは、世界中の諸伝説に多く見られる説です。ばらばらの国、地方が、なぜか同じ洪水伝説という伝説を残しています。

 多くの文明が洪水伝説を有し、その内容は、堕落した文明が、大洪水によって戒められるというものです。

 日本では沖縄にある伝説です。

 沖縄のいくつかの島に伝説は残り、島によって内容が少しずつ異なります。共通しているのは、大波が来て、兄と妹だけが助かるという部分です。

 風花はノートを読みあげた。昨日、一日かけて調べたのだ。

「どう? 飛雨くん。参考になった?」

 風花は笑顔で、くるっと飛雨のほうを向く。

 飛雨は風花のとなりの座席で、もの珍しそうに車窓を眺めている。バスにはほとんど乗ったことがないらしい。

 たまに振動するのも楽しいようだ。舗装がわるい場所で、車がガタガタと揺れるたび、おお、と声を漏らす。

 折れ曲がって開くバスのドア、ドアが開くときの空気が抜ける音に、瞳をむいて絶句する。

 風花は飛雨と、バスで蓮峯山はすねさんに向かっていた。

「わざわざ調べてくれたのか?」
 驚いたように、飛雨は振り返る。

「ありがとな」

 笑顔を見せた。



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