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水の空の物語 第2章 第29話

 銀色の街灯がひとつ、駐輪場に灯っていた。

 丸く霞んでいる灯りが、なぜかとてもきれいに見える。月のようだと、風花は思った。

 風花は振り返って、目を凝らした。どこにも夏澄の姿はない。スーフィアたちも、もどってこない。

「まだ、遊び足りないのか?」

 月夜が息をつく。

「でも、今は我慢してくれな。また来ればいいかな? 次は昼間に」

 月夜は、自転車の籠に荷物を入れた。彼も自転車で来たようだ。

「……ごめんなさい」

 ここまでの坂道を自転車で来るのは、大変だっただろう。好きで来た風花とは違う。

「いいよ。でも帰ったら、みぞれの散歩につき合ってくれ。まだ行ってないんだ」

「月お兄ちゃん、散歩権取っておいてくれたんだね」

 うれしいか? と、月夜は風花の頭をぽんぽん叩く。とても優しい目だ。

「ママが散歩用のおやつ作ってくれたよ。みーちゃんみーちゃん好物だってさ」

 愛犬に対する愛情は、風花の母親が一番強い。人よりも寿命が短い愛犬には、たくさん愛を送るのが信条だ。

 名前も人の倍呼び、愛情を渡そうとする。

 だから、みーちゃんみーちゃんだ。

 散歩権、ご飯権を考えたのも母親だし、庭にドッグランを造ったのも、ドレスを何十着も縫ったのも彼女だ。

 みーちゃんの本名はみぞれだ。みぞれはとなぎさは、風花の家の愛犬だ。

 みぞれもなぎさも女の子。ポメラニアンで、親戚の関係だ。



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