【SS】瞳に吸い込まれて【きっと、よくあるはなし】
小説「きっと、よくあるはなし」のサイドストーリーです。
本編は↓こちら
瞳に吸い込まれて
「今のこ可愛いかったな」
「おいおい、またかよ小野屋ぁ」
前を歩くチームメイトの会話が聞こえて一瞬自分は笑えなかった。
小野屋と同感だったからだ。
昇降口に1人で立っていた彼女は、次々といろんな部活から声をかけられていた。
ここでテニス部がしかも男女で攻め込むのは酷だと思ったが、お構い無しにズカズカとチームメイトたちは彼女に近づいて行った。
しかもこの有様。
「男テニはもうマネージャー充実してるでしょー」
「それ言ったら女テニも十分大所帯だろ」
「うっさい!どけ!」
「痛っ!ほらね。女テニは怖いですよ。野蛮。」
見苦しい小競り合いを見せられ彼女が困っている。
申し訳ない。
それでも、渡された女テニのチラシを丁寧に受け取ると、その紙面もしっかり見てくれている。
自分が持っていたチラシも彼女は同じように受け取ってくれた。
小さな頭とまとめられた艶のある髪が揺れ、彼女はこちらを見上げた。
近くで見たその瞳は、肌の色素や髪の色の割に黒くはっきりとしていて、文字通り吸い込まれそうだった。
上級生を前に緊張しているようで少し可哀想に感じる。
もう解放してあけだくて、女子チーム含めてその場を後にした。
「そろそろ練習始めるか」
「よし、体育館もどろー」
三年生が仕切り、今日の勧誘はここまでとなった。
「今のこ可愛いかったな」
「おいおい、またかよ小野屋ぁ」
「それな」
「マネージャー来てくれんかな」
「ちょっと気強そうだったぞ」
「気強くないと古参のマネージャーたちとやっていけんかもだぞ」
言えてる。ある意味プレーヤーより逞しく男前なマネージャーもいる。
「チャリ小屋んとこにいた子は脈あるんじゃね?」
「それな!反応良かったよな」
「俺のことめっちゃ見てた。」
「小野屋ぁ〜」
相変わらずの小野屋と都合よく盛り上がる部員たちの中、あの子の黒い瞳を思い出す。
あの緊張した瞳も綺麗だったけど、この高校に慣れて、仲良い友達もできて、楽しそうに笑っている顔も見てみたい。
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