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『おやすみ、お母さん』 風姿花伝プロデュースNo.9

2023年1月21日(土)18:30開演
@シアター風姿花伝
¥5,400(序※)

母と娘の二人芝居を実の母娘が演じるという試み。
海外戯曲は苦手だし、話もヘビーそうだし、自分向きでないだろうなとは思ったけれど。
娘の方の那須凜さんを『湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。』で拝見して気になっていたので、見てみたくてチケットを取った。お母さんの方は未見かと思っていたら『夢の劇』や『帰郷』で見てるじゃん。記憶力・・・

※価格設定が「序波急」の3種あり、公演期間のそれぞれ前半中盤後半となっている。後になるほど値段が高いのだ。

★ネタバレ注意!

<STORY>
雑然としたリビングダイニング、時計は20時過ぎ。
忙しなく家事をこなしながら拳銃を探す娘・ジェシーはこれから自殺するのだという。てんかん持ちで仕事に就けず、離婚し息子は犯罪を繰り返す。人生で何もかもうまくできない自分が、唯一成し遂げられることなのだと。
母・セルマは思いとどまらせようとあれこれ話をするが娘は聞き入れず。病気のこと、家族や友人・元夫のこと、生活用品の発注先、ココアとキャラメルアップルのこと。
「おやすみ、お母さん」と言い残して隣の部屋へ籠る娘、閉ざされたドアに縋り付く母。そして・・・

自分向きではないと覚悟して臨んだけれど、素晴らしい役者ふたりの怒涛の応酬を堪能した。いや、確かにヘビーだったわ。
何の予習もしてなかったので、最初はふたりが母娘だという以外年齢もなにも設定がわからず、やりとりするセリフから少しずつ状況が見えてくる。
ジェシーの息子の悪行が相当なので大人なのかと思い、じゃあジェシーは40代後半か?(見えないけど)そしたらセルマは70歳くらい?と予測したが、後で確認したら娘アラフォー、母アラ還なのだそう。
英語の名は性別が分かりにくいし、覚えにくくて最初は混乱したけど、話の流れでなんとなくの理解でもなんとかなった。

劇中ふたりとも勢いよく喋りまくる。そしてずっと何か作業をしている。延々と。
あちこちに置いてある瓶にキャンディやグミを補充する。戸棚、冷蔵庫の上、ダイニングテーブル、居間のローテーブル。アメリカの家庭ではあらゆるところにお菓子を置いておくのは普通なのかなあ。補充用のお菓子が大きな袋に三つも四つもストックしてあってすごい・・・。
洗濯物を畳んだり、ソファのカバーを交換したり、ココアを作ったり。
そんな日常的なやりとりをしながらの会話で、何となく状況を理解する。

家族だとしても、一緒に暮らしていても、そこには深い断絶があった。
誰のせいでもない、「個人の尊厳」の話だとセルマもわかっていたけれど、だからと言ってそうですかと納得できるはずもなく。
生きていて欲しいというのは母のエゴ。でも娘が先に逝くのも彼女のエゴかなあ。
客席からは静かに啜り泣きが聞こえていたし、ふつうはふたりのどちらかに感情移入して見るものかもしれないけど、私は両方から一歩離れたところで見ていた気がする。

私は割とオプチミスト(楽天家)なので死にたいと思ったことはほぼない(あったかもしれないが覚えていない)ので、ジェシーの気持ちはまったく判らないし、とても想像しにくい。
私が高校生の頃に母が「死にたい」と言っていたので、母娘が逆だけどセルマの方の気持ちは少しはわかるような気はする。その時は母に「私が幸せでいるための条件のひとつとして、お母さんには生きていて欲しい」と伝えたら少し驚いていたけど納得したらしく、自殺はしなかったので助かった。母子家庭で母に死なれたらめっちゃ困るじゃんか。弟もいるのに。

最後まで、なんとか自死を阻止できないかなと思いながら見ていたが、もちろんそれは絶対ないだろうとわかってもいた。
「おやすみ、お母さん」と言ってジェシーは隣の部屋へ行きドアを閉める。
セルマはドアに縋り「開けて! やめて!」と叫ぶ。
銃声が響き、セルマが泣き崩れて、幕。

濃厚な時間だった・・・
辛くてもう一度見たいとは思わないけど、観てよかった。
おふたりとも素晴らしかったけど、特に凛さんが好きだなあ。低めの声と、聞き取りやすい口跡、舞台での居方。やはり横浜で見た時に好きだなあと感じたのは、あの役のキャラクターだけではなかったんだな~~。

ジェシーはずっとママと呼んでいたのに、最後だけ「お母さん」だったのは何でだろうなあ。
腕時計を息子に渡してとセルマに託す時に「きっと売り払って薬代になる」と言われ、「だとしても質の良い薬を買ってくれればいい」というジェシーの答えにひょえーっとなったり。
携帯電話のない時代らしいのに、テレビが液晶なのは違和感あるなとか。
観劇から数日経つけど雑感というか、取りとめもなく色々と考えてしまう。
娘を失った母は、この先どんなにか辛いだろう。けど生き続けることを強制もできない。どうせればいいのかなんて正解はないんだよね。

公演期間は2月6日まで。

公式サイト
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