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【シロクマ文芸部】二人の冬の色


 「冬の色ってどんな色?」
 息子の竣が画用紙を片手にキッチンで夕食の支度をしていた私の所にやって来た。
 「何?それって冬休みの宿題なの?」
 「そうだよ。冬の色のデザインって宿題なんだ。冬の色を使って、画用紙いっぱいに模様を描くんだって」
 「そう…。松山先生って面白い宿題を出すね」

 竣の担任はかつての恋人の圭介だ。ゴールデンウイークにも「初夏を聴く」なんて変わった宿題を出してくれた。あの時、宿題の音探しに行った岬で圭介にバッタリ会ったのだ。圭介とは雰囲気に流されそうになったけれど、竣のおかげで何とか踏みとどまった。

 あれから参観日などで顔を合わせる事もあるものの、ただの担任の先生と保護者の関係のままだ。今でも心の深い所に圭介はいるけれど、それでいいと思っている。彼とはもう終わった事なのだ。いっその事、早く誰かと結婚すればいいのに、なんて思うくらいだ。圭介ならいい夫、いい父親になれそうなのに、とぼんやり思った。

+ + + 

 「美佳子は冬の色って何だと思う?」
 「なあに?突然そんな事聞くなんて。圭介、変なのー」
 「いや、何となく冬の色って何だろうなって思ってさ」

 冬の色か。冬の色って何だろう。私は少し考えて、笑いを堪えながら言った。
 「えっとね、クリスマスケーキの生クリームの白と苺の赤。チョコクリームの茶色。それと、チキンのきつね色!」
 「美佳子は食べ物ばかりだなぁ。食いしん坊め」
 圭介は私の鼻先をつんとつついて、ぐいっと抱き寄せた。暖かい圭介の胸の中で私は圭介の顔に手を伸ばして、少し伸びてきた髭の感触を思う存分堪能した。

 「圭介の思う冬の色って何なの?」
 「たくさんあるよな。空の色一つとっても、晴れた空のスキっとした青、吹雪いている時のどんよりした灰色とかあるだろう?何がいいか迷うよな」
 「決めきれなくって、食べ物の色にしちゃったもん」
 くくっと笑った圭介はテーブルの上のマグカップに並々と入ったコーヒーを一口飲むと、自分が選んだ色を教えてくれた。
 「俺は、クリスマスツリーの緑、イルミネーションの黄色、ポインセチアの赤だな」
 「緑と黄色と赤?ねえねえ、それさ、伊勢丹の紙袋じゃない!」
 「ほんと美佳子は夢が無いなぁ。三つ揃ったらかわいいだろう」
 「だったらさ、クリスマスプレゼントに伊勢丹で何か買ってよー」
 「ほんとにお前ってヤツは……」
 圭介は私の髪をくしゃくしゃと撫でて、両手で私の顔を包み込んでおでことおでこをこつんとぶつけた。それはまるで猫の挨拶みたいだなぁと思っておかしかった。

+ + +

 鍋に火を掛けている間、リビングの窓辺に置いたポインセチアの鉢植えを眺めながら、昔圭介と交わした「冬の色」のやり取りを思い出していた。「ポインセチアの赤ねぇ」独り言を言いながら鉢をそっと撫でてみた。何となく圭介がくくっと笑った気がした。

 竣が私の方を振り返って冬の色が決まったと嬉しそうに教えてくれた。
 「お母さん。僕ね冬の色が決まったよ。クリスマスツリーの緑でしょう、クリスマスに食べるチョコケーキの茶色でしょう、雪の白でしょう、それとお母さんの指輪の赤!!」

 指輪の赤?竣に言われて右手の薬指に光る指輪を見つめた。その指輪はあの時のクリスマスに圭介が伊勢丹で買ってくれた誕生石のルビーの指輪だった。ルビーの石言葉のような愛をもらった圭介に私は心の中でポインセチアの花言葉を送った。


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シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「冬の色」です。

冬の色、何にしようかと考えていたら閃きました!


このお話の続編を書く事にしました。
初夏の岬でいい雰囲気になりかけた圭介と美佳子でしたが、今はただの担任の先生と保護者の間柄です。
息子の竣くん、またまた圭介先生に面白い宿題を出されたようです。

緑と赤と黄色なら伊勢丹の紙袋でしょう!
こちらの紙袋、リニューアルしてちょっと色味が変わったんだそうですね。

写真は伊勢丹さんにお借りしました

九州に住んでいるので、伊勢丹は馴染みが無くてどんなデパートなのかよく分からないのですが(>_<)

伊勢丹の紙袋はCOWCOWのネタのイメージです。刷り込みかっ(笑)

最後にちょっと出てくる花言葉と石言葉なんですが。

ルビーの石言葉は「情熱・情熱的な愛・自由」などがあり、7月の誕生石です。

赤いポインセチアの花言葉は「祝福する・幸運を祈る・聖夜・私の心は燃えている」です。

ルビーもポインセチアも同じ様な意味があるんですね(⌒∇⌒)

昭和な私はルビーといえばこの連想をするしかありません(キッパリ)

大人になって聴くと、子供の頃には分からなかった情景や感情が伝わってきますね。子供の頃にめちゃくちゃ流行っていましたが、あの頃にリアルタイムで聴く事ができて良かったと思います。


創作なのに、またいらぬ事を長々と書いてしまいました。
こ、これがみ、みゆのスタイルなんだから……(震え)


今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪



#シロクマ文芸部
#冬の色

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