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【シロクマ文芸部】あの夏の思い出


 風鈴と蚊取り線香とスイカ。これはおばあちゃんの家で過ごした夏の記憶にある物だ。

 私は小さい頃「おとなのじじょう」でおばあちゃんの家に預けられていた。おじいちゃんもおばあちゃんも私が寂しくないように愛情をたくさん注いでくれた。

 そんな事を思い出しながら電車に乗ってこの街までやって来た。今年はカレンダーの並びが良く、すでにお盆の休暇に入っているからか、さほど人のいない駅を出て、おばあちゃんの家まで歩き出す。まだ午前中とはいえ日差しは強く、ジリジリと全身に照り付ける。やっぱりバスに乗ろうと駅に戻りかけているとスマホが鳴った。

 「もしもし」
 「みーちゃん、今どこ?」
 「今、駅前からバスに乗ろうとしてたよ」
 「だったら、駅前のケーキ屋さんでおいしいの買ってきて。私とみーちゃんの分二個ずつね」
 「分かった。何でもいいね?」

 電話はママからで、おやつのケーキを買ってきて欲しいみたいだ。ママは昨日から先におばあちゃんの家に来ていて、おばあちゃんの初盆の為の準備をしているのだ。私も今日から合流して、掃除をし、部屋を整えて、明日の初盆に備える事になっている。

 ケーキ屋さんでママが好きそうなケーキを四つ選んだ。先にママに選んでもらって、残ったのを私が食べようと思う。ケーキの箱を抱えて、私は隣の飴屋さんに入った。たくさんの飴の中から、金魚の飴を二袋選んだ。金魚の飴は、私が小さな頃からちっとも変わらない。これは、おばあちゃんとの思い出の飴だ。

 幸いバスもすぐに来て、冷房の効いたバスに乗り込んだ。車窓から見える景色は小さな頃とは変わってしまっている。新しいお店ができ、田んぼだった所も家が建っている。そんな景色を眺めて、私も大人になったからしょうがないよなあと思いながら金魚の飴を一つ口に放り込む。金魚の飴は昔と変わらずじんわりとイチゴの味がした。

 「ただいまー」
 「みーちゃん、お使い頼んでごめんね。外、暑かったでしょう」
 「うん、大丈夫だよ。私、何をしたらいい?」

 ママの指示を仰ぎながら片付けたり、掃除をしたりする。普段はあまり家のお手伝いはしないけど、明日の為にがんばらなくちゃいけない。
 縁側に掃除機を掛けていると、ちりんと涼し気な音がした。音の方を見ると風鈴がぶら下がている。

 「ママー。風鈴」
 「ああ、風鈴ね。戸棚の中に入っていたから出したのよ。これ、昔からあったのよね」

 やっぱりあの風鈴だったんだ。小さい時、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に音を楽しんだ風鈴だ。午後からは庭先で大きなたらいに水を入れて水遊びをした。晩ごはんの後には、蚊取り線香を焚いて花火をしたりスイカを食べたりした。
 そんな時、風が吹くとちりんちりんと涼しげな風鈴の音がしたものだった。

 「ママ、あのね。小さい頃にここにいた時ね。おじいちゃんとおばあちゃんと庭で水遊びしたり花火をしたりスイカ食べたりしたの。その時、この風鈴がちりんちりんって鳴ってたんだ」

 ママは私に目を細めて微笑んでみせた。でも、その目はなんだか泣いているようにも見えた。

 夕方が近くなった頃、ようやく作業は終わった。提灯を出し、お供えをし、おじいちゃんとおばあちゃんの居る仏壇に手を合わせた。

 ママとケーキを食べながら久しぶりにゆっくり話をしたような気がした。ママはいつも仕事だし、私も新入社員で仕事を覚える事がたくさんあるし、友達と遊んだりするのも忙しいからだ。

 「ねえ、もうおじいちゃんとおばあちゃんこっちに帰ってきてるかなぁ」
 「うん。きっとみーちゃんの横に座ってるよ。二人ともみーちゃんが生まれた時から可愛がっていたから」
 「そっか。それなら嬉しい」

 預けられていた小さな頃、淋しくなかったといえば嘘になる。それでも、私は二人に可愛がられて幸せだったんだなと思う。おじいちゃんに遊びを教えてもらったり、おばあちゃんのお手伝いをしたり。この家にはたくさんの思い出がつまっている。

 「ママ、このお家どうするの?」
 「そうね。ママはリモートでもお仕事できるから、時々ここに来て二拠点生活をするのも悪くないかなと思うんだよね。やっぱり、ここには思い出がつまってるからね」
 「それいいと思う!私もここに遊びに来たいもん」
 「みーちゃん、晩御飯はそこら辺に食べに行こうか?駅前まで出る?」
 「うん!そうしよう。何食べようかなぁ」

 このお家が残ると分かって私はホッとして、なんか嬉しくなった。おじいちゃんとおばあちゃんの喜んでいる顔が見えたような気がした。ママが出掛けるよと私を呼ぶ声が聞こえる。私は部屋の隅に置いた袋の中から封を開けていない金魚の飴を取り出して、仏壇にお供えした。

 「みーちゃん、早く!バス来ちゃうよ」
 「はーい、今行くよ!」


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シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「風鈴と」です。

昨日、短歌三首で投稿したんです。

ところがですね。
「風鈴」を「風鈴」だと思い込んでしまう痛恨のミスをしでかしまして。
それで、今度はショートショートでリベンジです💦

シロクマ文芸部に参加し始めた頃に書いた「咳をしても金魚」のお題で書いたショートショートの続きです。

こちら、私にしては珍しいほっこり路線のお話です。

リベンジどうしようと思っていたら、突然頭の中に降って湧いてきまして。書きながら考えるといういつもの感じで書きました。
とりあえず、お題で書く事ができて良かったです😊



今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪




#シロクマ文芸部
#風鈴と

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