Global Business Trend vol.17 |注目すべき次世代DTCブランドの成功要因と4つのP
(Image courtesy of ELLE )
Direct-to-Consumer(DTC)ブランド時代に突入してから、アメリカでははや10年が経過。市場はかなりのレッドオーシャンになってきており、 消費者のあらゆるニーズを満たす企業が、どこにでもある状態が出来上がってきた。
無名のブランドは、かつて「パーソナライズ」された眼鏡や最も安いプレミアムマットレスを作ることで際立っていたが、今ではその市場も混雑が目立ち、ブランディングの追加レイヤーが必要になってきている。
例えば、ヒップなDTCブランドが開発する歯ブラシはLGBTQの権利をサポートし、プラスチックの使用を削減。ビーガンな化粧品ラインは、象を救うために売り上げの一部を約束。「社会貢献をし、エココンシャスで、ニッチ」がDTCの合言葉としてうかがえる。
消費者はこのような動きを支援している模様。 Insider Intelligenceによると、2020年のDTC Eコマースの売上高は約180億ドルに達し、前年比で24%増加すると推定されている。 また、とある調査会社は、今年の売上高がさらに19%増加すると予測。パンデミックにより小売店が閉鎖され、広大なサプライチェーンが混乱したため、投資家はファッションと美容のDTCスペースに関心を寄せている。
一方で、消費者はミレニアル世代をターゲットにした「サンセリフのロゴが付いたパステルカラーのミニマリストブランド」という方程式に飽きを現し始めたのも事実であり、前世代のDTCブランドが完成させた公式である「ターゲットを絞ったソーシャルメディア広告に頼りきり」でできた売り上げは伸び悩んでいる。 マーケティング予算の大部分を有料の顧客獲得(ターゲットアド)に費やすのは、データプライバシーの法律に変更があったタイミングとの重なりもあり、時代遅れとなりつつある。DTC市場が成熟するにつれて、マーケティングへのアプローチも成熟している。
今回、DTCマーケティングの概要を調べ、ファッション、美容、ライフスタイルのDTCスペースで、型を破る方法を事例を用いて調べてみた。
(転載元: Business of Fashion)
DTC 第一世代: DTCの最初の波(2007-2012)
Warby ParkerとEverlaneがDTCの火付け役として登場。消費者への彼らのメッセージは、控えめでシンプルでだけど親しみやすく率直。プライスポイントも魅力的な低価格(卸売業者を排除するか、赤字を覚悟していたが、または多くの場合、両方を行うことで価格を抑えていた)でスタートし、話題になった。Warby Parkerの共同創設者兼共同CEOであるニール•ブルーメンソール氏は、価格はWarbyParkerの初期のマーケティング戦略の中核であったと述べている。ブランドのスターターフレームの価格を95ドルに設定のは、調査の回答に基づいており、消費者は、高品質のメガネに100ドルまでだったら支払うという結果が出たため。99ドルだと100ドルから割引された感じがするので、彼のチームは95ドルという価格に着地した。
また、初期のファッションと美容のDTCブランドで当時珍しかったのは、消費者に対して透明性を保っていたこと。これは、ベンチャーキャピタルの資金調達によって推進され、透明性はより高まっていった。 2016年までに、Everlane(当時のマーケティングにはブランドの中国の工場パートナーの写真をInstagramに投稿することが含まれてた)は、1,800万ドルの資金を調達し、5,000万ドルの収益の生み出しに成功。この種の成功は、DTCモデルの第2の波に影響を与えた。
DTC 第二世代: 「Instagram」ブランドの台頭(2013-2017)
Glossier、Away、Allbirdsおよびその他のブランドは主に2013年から2017年の間に設立。「Instagram」ブランドとして有名で、これらのブランドのロゴとキャンペーンは、パステルとサンセリフフォントを使い、ミレニアル世代の美学を追求。また、ソーシャルメディアを巧みに操り、消費者のハートをつかんでいた。私もGlossierのショールームはいち早くチェックしたのを覚えている(コロナ禍にニューヨークの旗艦店ショールームが閉まってしまったのを考えると、セカンドジェネレーションDTCの終わりを感じる)。
この成功方程式に倣って、Red Antlerなどのブランドエージェンシーは50以上ものDTCスタートアップのブランディングを展開。DTC 第二世代は、ソーシャルメディア広告の台頭と一致し、ブランドはすぐにこれをマーケティング戦略の中核にした。 FacebookやInstagramなどのプラットフォームで、アドテクのツールを使用して、顧客が誰であるかを正確に特定し、ターゲットを絞ったマーケティングを提供。ゴールデンタイムのテレビコマーシャルの安価な代替手段として始まったものは、新しい顧客を追跡し、規模を拡大する必要があるブランドにとって、必須なツールとなった。
2015年から2017年の間には、ファッションと美容のDTCスペースが成熟しすぎ、収益性への明確な道筋を示したブランドが比較的少なかっため、ベンチャーキャピタルの支援は鈍化。初期のDTC参入者の中には、エグジットに成功した会社もあれば、「次世代の実店舗」と呼ばれるような従来のお店を開いて、新しい顧客を見つける会社もいた。
この間にDTCブランドは増え続け、競合ブランドで溢れかえり、レッドオーシャンに。ルックアンドフィールが似てきてしまったのも、消費者の飽きに繋がった。
DTC 第三世代: 型破りなルールブレーカー(2018-現在)
2018年頃に出現し始めたParadeやBread Beauty Supplyなど、この世代の新興企業は、多くの場合、DTCブランド全盛期で波に乗った創設者によってバックアップされている。
消費者行動の変化は、新しいアイデアを持った新興企業には絶好のチャンス。
再燃した社会系の活動(Black Lives Matterやエココンシャス運動)により、消費者はソーシャルイシューに興味を持つようになり、ブランドが公言する価値観に挑戦するようになった。ブランドの主張を事実確認し、欠点を見つけるとオンラインでフォロワーに訴えかけるように。多くの大企業も消費者に恥をかかされるようになったため、DTCブランドはそこにチャンスを見つけ、透明性を担保しプログレッシブな価値観を消費者に約束し始めた。単に金儲けを意識するのではない、人間味のあるマーケティングを企業は意識するようになったのだ。 「過去10年間で進化したのは、企業がサプライチェーンについてよく考え、炭素排出量を削減しようとし、従業員を本来あるべき姿で扱うこと。」と、とあるマーケティング専門家は語っている。
今までの 「4つのP」のアップデート
上記で述べたように、DTCは、ファッションと美容の分野において新しい道を切り開いてきた。それにより、ブランドはマーケティングの4つのPを新しく認識する必要がある。
1960年代にミシガン州立大学のジェローム•マッカーシーマーケティング教授は、マーケティングの初期の「4つのP」を普及させた。これは、価格(price)、製品(product)、プロモーション(promotion)、場所(place)を規定したマーケティングの成功方程式。 2021年1月、広告会社McCannWorldgroupのグローバル最高デジタル責任者であるショーン•マクドナルド氏がこの4つのPの更新版をマーケティング業界誌 TheDrumに公開。この更新版によると、ブランドは今日、目的(Purpose)、ポジショニング(Positioning)、パートナーシップ(Partnership)、パーソナライズ(Personalize)を重視するべきと述べている。
今までは特に若い消費者(Gen-ZとGen Alpha)がブランドの目的をどのように評価するかに多くの注意が払われてた。しかし、購買力の高い、高齢の消費者も中途半端なのDTCマーケティングには批判的で、この4つのPを間違えると、政治でも今問題になっているいわゆる「フェイクニュース」と同等、DTCブランドの信頼を壊し、取り戻しのつかないことになる。消費者の信頼を構築または回復することが、ブランドの成功の鍵となっている。
(Business of Fashionより引用)
Purpose 目的: 消費者がブランドを評価する時に最も重要な要素。
Positioning ポジショニング: マクドナルド氏は、ブランドの文化や精神のストーリーやエクスペリエンスをどのように構築するかが重要だと語っている。消費者が「ブランドの文脈の中に自分を置くことができるようになるため、これはとても大切」と彼は語っている。
Partnership パートナーシップ: パートナーシップ、またはコラボレーションは、相乗効果を生み出すことができる「クールなXファクター」。ファッションとフードのコラボレーションは独自のジャンルになっており、Telfar x White Castle、Coca Cola x A Bathing Ape、Anti Social Social Club x Panda Express、Anya hindmarch x チェルシー などはすべて最近流行った事例。
ブランドが製品をさらに差別化するために追求できる付加的な要素としてパートナーシップは有効なのだ。
ただ、DTCブランドはバズる見出し作りのためにパートナーシップを実施するのは、長期的な顧客を獲得するためには十分ではない。
Personalization パーソナライゼーション:
上記全てにプラスすると効果が高いのがパーソナライゼーション。消費者一人一人が自分のニーズにあったカスタマイズができる商品は、今の時代に最も必要とされている。
そして、上記と同じくらい大切なのが、ビジュアルブランディングとインクルーシビティ。
Visual branding ビジュアルブランディング:
ミレニアル世代にはミニマリストなシンプルデザインが刺さっていたが、今ブランドは派手で目を引く色使いを取り入れつつある。
デジタルフェアリーのクリエイティブディレクターであるヤロップ氏は、DTCのファッションや美容ブランドは、ミレニアル世代のビジュアルブランディングのノウハウをそのままGen-Zに合わせたものにスライドできないと述べている。グラフィック、アイコン、カラーパレット、テクスチャなど、消費者向けの視覚的なブランドエクスペリエンスの骨格は、ブランドのウェブサイトやソーシャルメディアキャンペーンなどその他のツール全体に表示され、独自性を持たせ目立たせることが必要。消費者はそのブランドのデザインを理解して自分のものにすることで、シナジーが生まれる。ブランドは「生きて呼吸するもの」であり、常に反復を繰り返す必要があるという。
Inclusivity インクルーシビティ:
Imaginary Venturesの共同創設者兼マネージングパートナーであるナタリー•マセネット氏は、「サービスが行き届いていない消費者(置いてけぼりにされていると感じている消費者)を理解している創設者が率いるブランドが伸び率を上げている。消費者の声に耳を傾け、消費者を絶えず喜ばせ、驚かせる必要があり、ブランドの立ち上げがこれまでになく簡単になり、同時に難しくなっている時代は、初めて。」と語っている。
上記のポイントを効果的に反映しているブランド:
今まで考察してきたポイントを有効に活用していて、今アメリカで最も成功しているホットなDTCブランドを調べてみた。
Parade:
下着ブランド
•Positioning ポジショニング
•Partnerships パートナーシップ
•Visual Branding ビジュアルブランディング
ソーシャルメディアのフィードで目立つパキッとした色使いで消費者を魅了。Bold colors = bold women 大胆な色で大胆な女性を表しているかのように、女性を勇気付けるようなブランディング。ありのままの女性の姿(セルライトなどのレタッチなし)を起用し、一躍有名になった。パートナーシップ選びも秀逸で、2000年代ファッションブームが再燃しているところに目をつけ、Juicy Couture との提携をいち早く行った。リサイクル素材を使用するなど、エココンシャスな消費者も意識している。
Pan Gaia:
化学を用いた素材の開発をテーマにスウェットなどのアパレルを展開
•Purpose 目的
•Visual Branding ビジュアルブランディング
ネオンカラーがトレードマークなスウェットブランド。オーガニックコットンを使用していない商品は、リサイクルされたプラスチックでできており、ブランドの目的が明確。ウェブサイトも、北極や自然などの写真を多く取り込んでいる。ジェシカアルバなどのセレブも愛用していることから、「これを着てるとかっこいい」というブランドに。
Bread Beauty Supply:
ヘアケアブランド
•Positioning ポジショニング
・Inclusivity インクルーシビティ
黒人女性の髪の毛のニーズに合わせたブランド。ビジュアルも黒人女性を使用し、ブランドのポジショニングを明確にしている。創設者が幼少期に自分に合ったプロダクトが見つからなかったという想いから、共感性もしっかり意識できている。
最後に
今後数年間のデジタルマーケティングでは、いくつか課題が出てくる可能性がある。具体的には、ソーシャルメディア広告のコストの高騰と効率の低下。消費者の好みの追跡を困難にするデータプライバシー法の変更と相まって、DTCブランドは顧客をキープする方法を考え直す必要がある。
ブランドの未来は消費者の手にあるため、上記4つのP、ビジュアルブランディングそしてインクルーシビティをしっかり意識することが、これからは最も重要になり、顧客をキープする方法につながる。
参考文献:
•The Business of Fashion, The New 4 Ps of DTC Marketing
•The Business of Fashion, A New Playbook for DTC Brands
• The Drum, The 4Ps of marketing that unlock Millennials and Gen Z
• Deloitte, The Deloitte Global Millennial Survey 2020
• Edelman, Trust Barometer Special Report: Brand Trust in 2020
• The Business of Fashion, Why Social Media Advertising Is Still Necessary
• The Business of Fashion, What Fashion Can Learn From the Wild Success of McDonald’s Travis Scott Collab
• The Business of Fashion, What Does a Winning Post-Covid Marketing Plan Look Like?
• The Business of Fashion, How Not to Be a Boring Direct-to-Consumer Brand
• Bloomberg, Welcome to Your Bland New World
• Eye on Design, Is Millennial Minimalism On Its Way Out?
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