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フィンランド留学記#7 楽しい1カ月が過ぎてから、が留学の始まり

留学初期の1カ月間は、きっとアドレナリンが出つづけているのだと思う。新しい場所、新しい人々、何もかもが新しい環境で、ワクワクして、後から思えば大変なこともなぜか頑張れてしまう。心のリミッターがはずれているような感覚。

しかし、1カ月もたてば新しい環境に慣れてくる。家から学校への道も覚え、スーパーでの買い物の仕方も覚え、学校では顔見知りも増える。最低限のことができるようになった一方で、思うとおりに英語を話せないことへの苛立ちや、社交的なクラスメイトの輪に入れないことへの自己嫌悪がつのっていき、わたしはその頃しゅるしゅると元気をなくしていった。

わたしは、オウルに住む日本人の先輩に、最近落ち込んでいることを相談した。彼女は、「ビタミンD不足かもしれないね」と言って、ビタミンDのサプリメントを摂取することをすすめてくれた。

留学開始から1カ月後の10月は、オウルでは日照時間がどんどん短くなる時期でもあった。日光を浴びる時間が不足すると、体内で十分なビタミンDを生み出すことができず、精神がうつ状態になってしまうのだという。

わたしは早速帰り道に、ムーミンの絵のついたサプリメントを薬局で買った。おそらく子供用で、大人のわたしが摂取しても医学的にどれくらいの効果があったかはわからないけれど、プラシーボ効果か、「自分で不調に対処できている」と思えることの効果か、なんとなく心の元気に効いていたと思う。

また、同じくらいの頃、大学の秋休みがあり、日本からKちゃんがわたしをフィンランドまで訪ねに来てくれた。Kちゃんとわたしは中学・高校・大学までずっと一緒の学校で、気心の知れた友人だ。彼女と夜のヘルシンキを探索して、フェリーに乗ってタリンへ遠出して、オウルではできたばかりのフィンランド人の友達と一緒にお酒を飲んだりして、楽しい1週間を過ごした。

Kちゃんは、わたしに「ここで、生きてるだけですごいんだよ。」と言ってくれた。新しい環境で、知らない人だらけのなか、母国語ではない言葉を話して、暮らしている。友達がたくさんできなくたっていい。高尚なことを学べなくなっていい。ここで、生きてるだけで、十分えらいんだ。彼女がくれた言葉は、留学の最後まで、わたしをずっとずっと守ってくれた。

楽しいことばかりで、1年間を過ごすのは難しい。留学を終える頃、「もっとフィンランドにいたい」という気持ちはあったけれど、「もう一度留学期間を繰り返せるとしても、わたしは繰り返さないだろうな」と思った。ただ、留学のつらかった頃を文章にしていると、いかに周りの人のあたたかい言葉がわたしの心を保っていたか、そして、今のわたしを形成しているかを痛感する。そういった言葉たちにも、フィンランドに行ったから出会えたのだ、と思う。

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