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フィンランド留学記#16 安全な国でも怖いことは起こる

フィンランドは比較的安全な国だ。友達が大学構内でなくしたお財布が、ちゃんと手元に戻ってくるくらい、治安のいい国だ。それでも、1年間もいれば怖い思いをしたこともあった。

これまでにも留学中に「ちょっと怖い思いをした経験」は、紹介してきたけれど

◼️ヘルシンキでお兄さんに絡まれた話

◼️バスでおばあちゃんに怒られた話

今回は、留学中でいちばん身の危険を感じた出来事を紹介したいと思う。

時期は留学後半、雪の日のこと。当時は、大学とシティセンターの間にある寮に住んでいて、大学や中心地へはバスで移動していた。

ある日、寮に帰るバスに乗っていたとき、1人のフィンランド人男性が、バスの乗客みんなに「明日バスに乗るためのお金をくれ」と言って回っていた。他の乗客に無視されて、とうとうわたしのところにもやって来た。わたしは咄嗟に「フィンランド語がわかりません」とフィンランド語で答えてしまった。

そうすると、その人は紙に英語や数字で「お金をくれ」という内容を書いて、わたしに見せてきた。数ユーロならあげてもいいかなとと思ったけれど、一度お財布を出してお金を渡すと際限がなくなってしまいそうで、怖くて無視してしまった。

寮のバス停につき、わたしが降りると、なんと、そのフィンランド人男性もついて降りてくる。バス停で改めて、「お金をくれ」と言われたので、「ごめんなさい、お金がないのであげられません」と言って寮に向かって歩きだした。そうすると、その人が「ウオーー」と叫びながら、バス停をドンドン殴り始めた。そしてわたしを追いかけてきた。

怖くて怖くて、雪をふみしめながら、寮への道を小走りで急いだ。本気で走ったら、男性を刺激してしまいそうだったし、まず雪で転んでしまいそうだった。寮についたとき、玄関で、屈強そうなフランス人留学生の男の子たち数人がタバコを吸っていて、この人たちがいればこれ以上追ってこない気がしてほっとした。わたしの焦った顔に、フランス人留学生たちはキョトンとしていた。

振り向かず自分の部屋まで戻って、やっと安心したとき、わたしはどうすればよかったのだろうと考えた。たった数ユーロなのだから、お金をあげたらよかったのだろうか。でも、バスの中ならまだしも、二人きりのバス停でお財布を出すのは怖かった。そもそも、話しかけられたときフィンランド語で答えずに、日本語で話して「本当に話が通じない外国人のふり」をしたらよかったのかな。バスに乗りながら「バス代がない」と言っていたのは、本当だったのだろうか。本当だったらあの人は、明日のバス代に困っているのに、この寮以外何もないバス停で降りてしまって、家に帰れたのだろうか。

しばらくずっと、恐怖感と罪悪感が残り続けた。今でもあのとき、どうしたらよかったのかわからない。想定していない出来事が起こったとき、冷静に「正しい」行動を取るのは難しいことを感じた。

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