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安くて美味しい日本、でも食べられなかったわけ

12年ぶりに帰国した。

羽田に義兄が迎えに来てくれた。

実家までの車中、
「いや~、アメリカは物価が高くて大変だね」
と、アメリカ通みたいに話す義兄。

(あ~、そういえば、最近ハワイ旅行した日本人がレストランの食事の高さに驚いた、という日本のニュースをやっていたな)
と、心の中で呟く私。

確かに、コロナの影響とウクライナ情勢で、高くなった物は多いけれど、トレジョなど、それほど値上げをしていない店もあるし、理由がわかっているので、値上げは仕方無い、位にしか思っていない私。コロナ後、飲食業は酷い人手不足に悩まされ、賃金を上げている。だから外食業界の値上げは、凄まじい。それに、円安の今、ドルを円に換算すると大変な金額になる、などの思いが脳裏を駆け巡る。


帰国すると、日本は素晴らしいと褒めて、アメリカは住みにくいと貶すのが礼儀みたい、と感じる私は、一応、
「そうなんです、アメリカ生活は大変です」
と言っておく。


帰国してしばらくは、母の介護で、出かけるのは近所のオーケー位。紫蘇、柚子、ミョウガ、ブリ、塩鮭など、日本の美味を毎回購入。ミョウガなんて、何年も食べてない。ロサンゼルスの日本食料品店と比べると超安価。そして、レジの女性達(スーパーのレジで男性にお目にかからなかったので。差別ではありません。)は無駄話もせず、テキパキと迅速に働くのに、驚く。やっぱり、日本って凄い。

数日後、姉夫婦にショッピングモールに連れて言ってもらう。ユニクロやGUでのショッピングを楽しむ。服も安くて、作りもデザインも素晴らしい。

お昼はフードコートでラーメンを頂く。義兄の薦めで鶏塩レモンラーメンを注文。780円。鶏のあっさりしたスープの塩ラーメンにレモンの風味。上品な味だ。技術と手間が味で分かる。トッピングに薄切りのチキン、カイワレとミョウガ。色合いも粋だ。

アメリカでもラーメンは流行っている。麺は輸入か、国産でも高価だ。そしてスープはじっくり煮込み手間がかかる。作る技術と手間に対する対価を要求する権利がある。だから一番安くても12ドルくらい。平均ラーメン一杯15ドルくらいだ。そう考えると、この鶏塩レモンラーメンは、18ドル位払いたい、と私は思う。

安ければ良いじゃない、と思われるかもしれない。しかし、自分も飲食業に携わっていた為、料理を作り、提供する人について、そしていただく側の礼儀について考えてしまう。780円では、材料費と固定費と最低賃金が何とか払えるくらいにしかならないだろう。日本には、チップを置く習慣も、少し多めに支払うという習慣も無い。美味しかった感動は、レジの人に言葉で伝えるしかなかった。

私は、料理が好きだから、実家で自炊が多かったが、出先で、軽い食事をする度に、同じ思いをした。安すぎる。昼時はもっと安くなる。飲食業はバカにされてるんじゃないか!?

ある日、出先からクタクタ、腹ペコで実家の最寄り駅に着く。駅前のコーヒー店の外に写真付きメニューが貼ってある。

モーニングセット、350円。パスタ、680円。

お腹が空いていたけれど、どうしても入店出来なかった。もう、同じ気持ちになりたくなかった。

私は、政治経済の事はわからない。一庶民として思う。日本は先進国であり、日本人の技術とサービスは世界でも最高級だ。もう、安い、イコール、良い、という考えを改め、良い技術やサービスに、それに見合う対価を付け、賃金も世界に張り合えるようになって、誇りを持って働きを提供して欲しい。

実家に着き、ご飯と母が残した塩鮭を食べながら、そんな想いに耽るのでした。

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