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ポップアップ・ブックカフェ「Books & 染 (some)」開催レポート#2 ― トークセッション 前編

2023年7月28日(金)・29日(土)に、5回目となるポップアップ・ブックカフェを長野県北佐久郡御代田町にて開催いたしました。詳細はこちら
おかげさまで無事に終了し、ご協力くださった皆さまに改めて感謝申し上げます!

今回も、当日の様子を4回に分けてレポートしていきます。

1.ブックカフェ編 
2.トークセッション(染織作家 たかのきみこさん)前編 ←いまココ
3.トークセッション(染織作家 たかのきみこさん)後編 
4.ワークショップ編(Curry屋店主×染色 本間江里さん)

御代田の真夏の夕暮れどき。太陽が山並みに隠れ、カフェの窓から見える木々や空が少し藍色がかってきたころ、軽井沢町追分在住の染織作家 たかのきみこさんによるトークセッションが始まりました。

涼しげな白地に薄墨色の模様が入った浴衣に、ご自身で染めた糸で織られた薄紫色の帯を締めたたかのさん。たかのさんのお持ちくださった「染」にまつわる本が並ぶテーブルを囲んで、参加者の皆さんが座ります。

カフェ&インテリアLの居心地の良い店内。窓からヒグラシの声がほのかに聞こえる。

たかのさんのお仕事について教えてください。

「織り」の作品を作っています。最近は手織りのものを身近に使うことが難しい時代。私は少しでも使ってもらえるものを作りたいと、ショールやマフラー、服地といった「身にまとうもの」を主に作っています。「織る」ために「紡ぐ」と「染める」は必須なことで、今日はその中で「染」の話をさせていただきます。

最近の織物の多くは化学繊維が使われますが、私は自分の手の届く範囲の仕事をしたいと思っているので、羊毛や絹、木綿、麻といった天然繊維を使って、天然の染料を使って作品を作っています。

たかのさんは、作るプロセスのどの段階からご自分でなさっているのですか?

糸を紡ぐところからです。例えば、蚕や綿花を育てるとなると、そのことに時間を取られてしまい、また種類も限られてしまいます。「こういうものを作りたい」と思った時に、素材を買うところから始めます。

紡ぐところからやる理由は、まず、特にカシミヤのような獣毛類やウールの場合は、市販の糸の種類が少ないからです。また、機械紡績で糸にしたものと手で紡いだものでは、全く表情が違うんですよね。絹の場合は、糸繰りは設備的に大変なので、購入した糸を使っていますが、真綿紡ぎの場合は繭を煮て真綿を作るところからしたりします。

どういう糸を紡ぎたいかによって道具や紡ぎ方が決まります。繭からとれるのは長い繊維。木綿やウールは短い繊維。太さもそれぞれ異なります。道具も種類がいろいろあって、例えばアルプスの少女ハイジのおばあさんの紡ぎ機はウールを紡ぐためのものです。私も何種類か道具を持っていて、使い分けています。

染織家のたかのきみこさん

「紡ぐ」の次が「染め」ですね。

織物とは糸の縦と横の組み合わせで、線を面にしていく作業。だから先に糸を染めて、経糸と緯糸の組み合わせで効果を出していきます。私は主な染料は染料屋さんから購入しますが、せっかく軽井沢に住んでいるので、ときどきは自分で採取した植物で染めます。染める時には、作品のイメージを持って染めることもありますが、自分で採取して染める場合は、この時期を逃すと1年後まで待たねばならないからとりあえず染めておこう、となることも。

この辺りでおすすめの染料はクルミです。クルミはタンニンが多く、植物繊維、つまり綿や麻と結びついて染めやすく、しかも媒染 (薬品処理) が不要。実の青いうちに煮出して染めると茶色になります。どのくらいの濃さになるかは、その時の分量や配合によります。化学染料がきちんとレシピが決まっているのに対して、植物染料での染め方は人によってまちまち。煮出しすぎると雑味が出て濁るなど、欲しかった色ではない色ができたりします。クルミの場合、私は沸騰して10分くらいで上げてしまいます。

(さらに、「染め」の話が展開していきます。)

絹は熱に強く、何度も繰り返し染め重ねることで濃い色にできます。ウールはフェルト化しやすいので、なるべく一回で染めたい。ウールの場合、毛の状態の時に何色かに染め、それを混ぜ合わせて糸にします。赤い糸にしようと思ったら、例えば赤とオレンジとほんの少し補色の緑を混ぜ合わせる。そうすることで、染料を混ぜ合わせて染めるより深みが出ます。「点描」のイメージと言うとわかりやすいでしょうか。それがウールの織物の楽しさです。

材料として花や葉っぱを使うこともあります。ただ、実は、赤い花で赤い色に染められるのは紅花くらい。しかも淡い色ですぐ褪せてしまいます。そして、葉っぱでは緑は染まらない。緑っぽい色を出すために、私が最近良く使うのはタキツボスミレやクサギの葉です。それらをアルカリで煮出して中性に戻して使うと、緑っぽい色素を出せますが、しっかりした緑色にする場合は、藍と黄色を重ね染めします。

そして、紫色も藍と赤系の染料を染め重ねて出します。昔から使われる染料に「紫根」や「貝紫」がありますが、それらで染めた紫の布を見ても、私の目にはそこまで美しい色に映らず、敢えてその色を使おうとは思いません。なので、紫を出したいときは、私は藍と赤系の染料を染め重ねて色を作るようにしています。

独特の空気感と深いニュアンスのあるたかのさんの作品

化学染料ではなく、植物染料でやっていこうと思われたのはなぜでしょう?

大学で学んだのは主に化学染料を使った染織で、20代の頃は化学染料と植物染料の両方を使っていました。化学染料はミリグラム単位の分量での配合で、計量や温度や時間管理に神経を使わなければならす、失敗するとひどい色になったりします。対して、植物染料は採れる場所や季節などによって色素の含有量がまちまちで、必ずしも思い通りの色を出せるとは限りません。でも、植物染料で染めた糸は、思い通りの色を出せなかったとしても破綻がなく、当初の目的に使えなくても何かしらに使えます。

また、植物染料の糸で織ったものは、他の色のものに合わせても嫌な感じにならず、どんな色にも合わせやすいのです。化学染料はピュアな色素なので、繊細な色合わせが必要です。そうして徐々に植物染料のみを使うようになっていき、いつの間にか化学染料の色よりも植物染料の色の方が美しいと感じるようになりました。

植物染料の色は柔らかいというイメージがありますね。

よく草木染めは地味とか淡いと言われますが、私はしっかりした色を出したいんです。古来から人類は、しっかりとしたきれいな色を出したいと思って染織をやってきたはずです。植物染料でも鮮やかな色を出せます。天然のものを使うから良いということではなくて、美しいから使うのです。私は植物から鮮やかな色を出すことをしたいと思っています。

作品を手にしながら、たかのさんのお話を聴く

👉 トークセッション後編 へ続く・・・


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