最近のミヨ子さん 介護施設入所後、その十四
(その十三より続く)
8月12日(月、振替休日)。入院中のミヨ子さん(母)を、息子のカズアキさん(兄)、お嫁さん(義姉)そして孫娘(姪)がお見舞いに行った動画が送られてきた。ミヨ子さんは手をグー、パーしたりできる程度にまで回復している。
動画の中のミヨ子さんは、やおら掛け布団をはぐった。脚を出したいのか、片方ずつ脚を曲げている。「暑いの?」とお嫁さん。どうやら「暑いような、寒いような」と答えているらしい。新型コロナ感染予防のためアクリル板越しということもあり、動画にはミヨ子さんの声はほとんど入っていないのだ。「暑いような、寒いような、ってうちにいるときと同じだね」とお嫁さんが笑っている。ミヨ子さんは寒がりなのだ。もっともお年寄りはたいてい、暑さより寒さのほうに敏感だ。
「何か食べたいものある? 今度持ってくるよ。冷たいものとか…」とお嫁さん。「ばあちゃん、アイスとかすぐにでも食べちゃいそうだね」と孫娘。ミヨ子さんは食べることが大好きで、とくに甘いものが好物だと、家族みんなが認識している。
15分間の面会時間に終わりが迫ってきたようだ。「お盆だからこれからお墓に行ってくるよ」とカズアキさんが、「また来るからね」とお嫁さんと孫娘が言い、数本に分かれていた動画の最後の1本が終わった。
それにしてもすごい回復力、というか生命力だ。わたしがまだ実家にいた頃のミヨ子さんは、けして体が丈夫なようには見えなかった。ミヨ子さんの半生をつづってきた「文字を持たなかった昭和」の「六十四(丈夫というわけでは…)」で述べたように。
もちろん病院の適切な治療のおかげであるし、病院関係者の尽力には感謝すべきだろう。お嫁さんたちがこまめに訪ねてくれて、ミヨ子さんを力づけてくれていることにも、そして面会の様子を動画で送ってくれていることにも、もちろん感謝している。
と同時に実の娘としては、ミヨ子さんの状況を送ってもらった動画でしか共有できないのは、寂しくもある。わたしもあの場にいたいのに……と。
お嫁さんからのメッセージのひとつには、「面会から帰ったら郵便が届いてました。ハガキは次に持って行くね。でもアクリル板越しだから、ハガキは読んであげることになるでしょう」とあった。間に合わなかったんだなぁ、とこれまた寂しくなる。
ミヨ子さんは、お見舞いに来る人たち――もちろん家族なのだが――をどう認識しているのだろう。一人ひとりちゃんと見分けて、自分とどういう関係なのかわかっているのだろうか。その中に娘がいないことをどう思っているのだろう。「来てくれないかな」とどこかで思ってくれているのだろうか。
考え始めるとキリがない。だからわたしはまた自分に言い聞かせるしかない。
ミヨ子さんはもう半分神様にお預けしたのだ、高齢で介護が必要な親を持つとは、つまりはこういうことなのだ、と。(その十五へ続く)
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