最近のミヨ子さん 介護施設入所後、その十五

その十四より続く)
8月16日(金) 入院中のミヨ子さん(母)の次の面会について、お嫁さん(義姉)より連絡があった。翌日(17日に)行くという。メッセージには「面会予約のため病院に電話したとき看護師さんから『食事も自分で食べられるようになりました』と聞かされました」とあった。

 つまりスプーンだかお箸だかを自分で持ち、食事を口に運べるまでになっているということだ。8月8日の転院前後までは看護師さんから食べさせてもらっていたわけだから、10日も経たずに手が使えるようになったということになる。回復力に感嘆すると同時に、「どれだけ食い意地が張っているんだ?」と心の中で苦笑いする。

8月17日(土)午後 お嫁さんが面会に行ってくれた。
 わたしのスマホのネットワークが不調で、お嫁さん(義姉)からの連絡をタイムリーに受け取れなかったので、送られてきたメッセージと動画を夜まとめて見る。

 メッセージにはいきなり「週明けに担当医と病棟で話し合い、退院の予定が大体わかると言われました。」とあった。もう退院?! ほかには
・食事は完食している。
・車椅子で立ったり座ったりができるようになった。
・手すりを掴んで歩けるようにもなった。
・おむつの中に手を入れて汚してしまうことがある(予防のためつなぎのパジャマを着せている)
――などが書かれていた。

 伝い歩きというほどではないのだろうが、もう立ち上がれるほど回復したなんて! つい5日前はまだ上体を起こせるかどうかだったのに。よほど「食事は完食」の効果が大きいのだろう。と、わたしはまた心の中で苦笑する。

 動画の中のミヨ子さんは、看護師さんが推す車椅子に座っている。まだまだ痩せていて、こんなに痩せた「母親」をわたしは見たことがないが、それでも、緊急搬送先の病院で点滴のチューブに繋がれて、痩せさらばえ、「このまま衰弱して消えてしまうのではないか」と思われた姿に比べれば、言葉は悪いが格段に「人間らしさが戻った」感がある。目の動きにも力があり、お嫁さんの問いかけも、ある程度わかったうえで答えている感じがよく伝わってくる。

 とは言え、会話がところどころちぐはぐなのはしかたがない。自分の状態を100%把握できているわけでもないだろうし、そもそも認知機能の低下は進んでいたのだから。

 手には、わたしがレターパックでお嫁さん(義姉)宛てに送った絵ハガキを持って、絵の周りに書かれた文章を読んでいる。声に出してはいないが、目の動きで文字を追っているのがわかる。ひととおり読むと、今度は表書きを眺めている。ハガキをレターパックに入れる前、宛先や自分の住所を書くべきかちょっとだけ迷ったのだが、書いておいてよかったと思う。

 お母さん、たしかにお母さん宛てのハガキでしょう? きれいな花の絵でしょう? それは娘からのハガキだと、わかってくれているよね?

 動画の中の痩せたミヨ子さんを、わたしは祈るような思いで見つめていた。(その十六へ続く)

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