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【自分さがしvol.2】ニンニの物語から「勇気」 をみつける

 「ムーミン谷の仲間たち」に収録されている、「目に見えない子」というお話をご存知ですか?
 そこに登場してくる、姿の見えない女の子「ニンニ」。彼女の勇気の物語についてお話します。

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 ある日、ムーミンの家に、おしゃまさんが1人の女の子を連れてきます。名前はニンニ。姿が見えないので、首につけている鈴だけ、見ることができます。
「チリン チリン……」
ニンニがどうしてこんな姿になってしまったかというと、ニンニを育てていたおばさんに、氷のような冷たい皮肉を言われ続けているうちに、だんだんと青ざめてしまい、端の方から色褪せて、とうとう見えなくなってしまったというんです。
姿が見えなくなったので、この子の世話はできないと、ニンニはおばさんに連れられて、おしゃまさんの家にやってきて、そしてムーミンの家に連れてこられたのです。
 ムーミンパパは、医者にでも連れていったらいいんだろうかと言うけれど、ムーミンママは、

"「わたしはそうは思いませんわ。きっとこの子は、しばらくのあいだ、見えなくなっていたいと思ったのよ。おしゃまさんはいったじゃありません。この子ははずかしがりだって。気分がはれるまで、そっとしといたほうがいいわ」"

そう言って、屋根裏部屋にニンニのベットをつくってあげました。
翌朝、ニンニの足がうっすら見えるようになりました。ミイは

"「あんた、ぶたみたいによくねてたわね。いつあんたは、あんたの鼻を見せてくれるの。もしあんたが、人に見られないことをのぞむんだったら、ぎょっとするようなすがたをしなくちゃだめね」"

ムーミンはニンニのところに駆け寄って
"「ミイのことなんか、気にかけないこと。あいつは、ハードボイルドなんだから。ぼくたちのところにいれば、きみはまったく安心なんだよ。あのいやらしいおばさんのことなんか、考えないでいいの。ここへきて、きみをつれていくことなんか、ぜったいにないから……」"

するとたちまち、ニンニの足の色はうすくなっていきました。ムーミンママが「思い出させるようなことしちゃダメじゃない」と、ムーミンを叱り、りんごをもいでちょうだいとうながします。ニンニは、ミイに厳しい事を言われたり、何か失敗する度に姿がうすくなってしまいます。ミイは、何も言い返さないのがニンニのわるいところだと思い、

"「たたかうってことをおぼえないうちは、あんたには自分の顔はもてません」"

ニンニは後ずさりして、これ以降も顔が見えるようにはなりませんでした。

ある日、ムーミン一家は海へ出かけました。
ニンニは、初めて海を見て、あまりに大きくて驚いてしまい、しくしくと泣いていました。ムーミンママは、桟橋に座って海を覗き込んでいました。ムーミンパパが脅かそうと思って後ろから近づく姿を、ニンニはムーミンママを突き落とそうとしてるのではと思いました。

ムーミンパパの「ぎゃっ」という声が聞こえてきました。ニンニがムーミンパパを止めようと、しっぽをかじったのです。

"「おばさんを、こんな大きいこわい海につきおとしたら、きかないから!」"

その瞬間、ニンニの顔が見えるようになりました。
可愛い子でした。

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私はこのお話が大好きです。
ミイの言葉はキツく聞こえるかもしれません。けれど、どんなに理不尽なことに対しても、冷静に話すなり、対処が出来ずに、ただ言われるがまま聞いてしまう自分はどうにか変えたかった。
 優しくしてくれた、ムーミンママを守りたかったニンニの怒りは、勇気と誇りがある。
何か一つ、自分の信念に基づくものがあれば、私はそれを守るために少しばかり勇気を出してみようかなって。
この物語のミイの「『顔』を持てない」という台詞、最後に「顔」が戻るところ…なるほどなぁと。
トラウマの回復の過程と同じ。
「顔」…つまり、アイデンティティの再構築。
なくなってしまったわけではない。
本当に文字通り「見えなくなった」だけ。
だからまた、見えるようになる。
勇気を出した時に。

※台詞部分引用:
「ムーミン谷の仲間たち」ヤンソン  山室静/訳 (講談社文庫)

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