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七夕の夢

薄暗い空間の中を流れていく人混み
誰も会話せず、人々の足音だけが響く

ポツンと突っ立って周りを見渡す私。

ふと、誰かと目があった

スマホで話しながら、こちらに手を振りつつ
近づいてくる。あれは…

〝よぉ!今さ、準備してるからもう少しだけ
待ってて〟
スマホを耳から離さず私にそう言って、人混みに
流れてく彼を、私はポツンと突っ立ったまま見送っていた…


なんかリアルな夢だったな。
起きてシャワーを浴びつつ今朝方見た夢を思い出していた。
翔太の姿も声も全部、リアルだった。

メチャクチャな夢と、リアルな夢。
メチャクチャな夢は〝あ、夢だな〟って自分で終わらす事が出来る。
リアルな夢の時は、不思議と夢にリンクしたような現実が起こることがしばしば…ある。

まぁ、夢に出てきても不思議ではない。
何故なら今日は1年ぶりに翔太と会うのだから。

付き合って3年ちょっと。
私は生まれてからこの街にずっと住んでいる。
翔太は一時期この街に住んでたけど、今は仕事の関係で日本中をあっちへこっちへ、落ち着くことなく動き回っている。
不安じゃないの?なんてよく聞かれるけど、不思議と不安を感じたことはない。

掴み所がなくてどこか飄々としていて、時々何考えてるか分からない。
まだ付き合う前だった。翔太の事を色々知りたくて、〝どんな女の子が好きなの?〟と聞いたら、
〝コカ・コーラ〟と言われた。
キョトンとする私に〝No Reason!コカ・コーラってCMあったじゃん。好きに理由なんて無いよ。好きになった子が好き。〟なんて言う人だ。
納得できるような、できないような、複雑な気持ちになったけど。でも居心地がよくて、気がついたら付き合っていた。私も翔太も自由を好む。そんなところが性格的に合っているのかもしれない。

天気は曇り。ギリギリ雨は降らない予報。
待ち合わせの駅に少しだけ早く着いてしまった。
今日は平日なのに混んでいる。
エスカレーターに乗ってゆっくり降りる。
向かい側の階段からも人が流れてくる。

あ…
階段を降りる人混みの中に翔太がいた。
さすがに気づかないよね…
声を出す訳にもいかず、目で追った。
階段を降り改札に向かう翔太。何故かエスカレーターの横でピタッと足を止め、パッと上を見上げた。
その瞬間、目が合った。
ハッとする翔太。にっこり笑って手を降ってくれた。

あぁ、この人は私が世界のどこにいたって、きっと見つけてくれる人だ。なんだかそう思った。
まぁ、世界のどこかに行ってしまってるのは翔太の方なんですけどね。

〝よぉ!同じ電車乗ってたんだな〟
久々なのに、久々な感じがしない。昨日も会ってたみたいに手を繋いで改札へ向かう。

予定は特に決めてない。
洋服見たり雑貨見たり、気になったお店に入ってプラプラして、時々別行動してまた合流して、お茶してダラダラ話して。
何でもないことして2人で過ごす。
久々に会ってもそんな感じ。

いつも遠くにいるのに、いつも近くに感じる。
別に毎日連絡取り合ってる訳でもない。
スマホがあるから、SNSがあるから、繋がってる?
そういうのとはまた違う。上手く言えないけど…

夕方、涼しくなったのでコーヒーを買って公園を
散歩して、池の前にあるベンチに座ってダラダラと
話をしていた。

〝友達に今日会うこと言ったらさ、ガチの織姫と
彦星じゃーん!って笑われてさぁ!〟
〝別に今日を狙った訳じゃねぇからな〟
〝分かってるよ。たまたま七夕だっただけ、なんだけどねぇ〟

いつの間にか空は晴れていた。
夜が始まる、グラデーションの中に1番星が輝いている。

〝そうだ。俺さ、ついに見つけたんだ〟
〝なにを?〟
〝一生ここに住みてーなぁ!って思える場所〟
〝へぇ〟
〝舞も100%気に入ると思う。一緒に来てくる?〟
〝別にいいけど、いつ?〟
〝…あ、ピンと来てねぇな?
プロポーズだぞ。これ。〟
〝…へっ?!なに?どういう…?え??〟
〝わははは〟
〝わははじゃないんだよ!分かりにくいんだよ、
いつもいつもー!!〟


どこにいたって
誰といたって
何をしていてたって、
私の世界からこの人が居なくなることは無い。
なんだかそう思う。

織姫と彦星も、1年会えなかろうが、どんなに周りから反対されようが、2人にしか分からない
〝何か〟があるんじゃないかな。
そんな気がする。

織姫と彦星のことと、これからの私達のことを想いながら空を見上げる。


〝準備してるから待ってて〟

今朝の夢の中の翔太の言葉を
また思い返した



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