余計なオ・セ・ワ

ただただ寝ていたい休日の朝。うっすら差し込んだ光で朝は感じ取っているが、まだ体は寝ようとして動かない。

スマホが私を呼んでいる。仕方なく手を伸ばした。

〝知り合いの息子さんが、優美子を嫁に欲しいんだって。秋田県内に住んでる人だよ！〟
地元秋田の母からの連絡だった。

えーと、あれですか？
人身売買始めました、的な？
私が嫁に行ったら巨額の富が手に入る、的な？
〝秋田県内に住んでる人〟って情報のみで、大事な娘をどこに売り飛ばそうとしてるんだっ？！
どんだけ東京から連れ戻したいんだか…もはや同県に住んでさえいればどこの誰でも良いという訳か…

〝無理〟とだけ、返信をした…

そもそも結婚願望は無いし、別に今すぐ彼氏が欲しいわけでもない。これは今に始まったことではなく、昔から、なのだ。

再び布団に潜り込んであることを思い出した。
しばらく前のこと、何気なくスマホを開いた瞬間に飛び込んできた言葉があった。

〝デミセクシュアル〟

初めて聞くその言葉に何故か興味を持ち、調べてみた。
〝他者に対して性欲を抱くことはないものの、強い愛情や深い友情を感じたごく一部の相手に対して性的な欲求を抱く…
精神的な深い繋がりがない初対面の人や知り合ったばかりの人には恋愛感情や性的魅力を感じることはなく、一目惚れもしないとされている…
芸能人等の恋愛や性的な話題に対して違和感を感じることもある…
デミセクシュアルの人は精神的な心の繋がりを重要視して外見や職業はもとより、性別にとらわれず相手に対して惹かれるケースがある…〟

驚いた。全て私に当てはまっていた。あ、まだ同性の人に恋した経験がないからそれ以外ということになるか…
でもまぁ…、一目惚れはしたことない。時間をかけて相手を好きになる。数回しか会ったことのない人に好意を持たれると逃げたくなる。芸能人は誰がタイプ？と聞かれても答えられない。周りは好きな芸能人の話題で盛り上がっていても、ついていけない、芸能人に恋愛感情を持ったことがない。なにより
１番に精神的な繋がりが欲しい…

色んなセクシュアリティがあるのは知っていたけれど、どれにも当てはまらないと思っていた。私は
何か人と感覚が違うんだと思っていた。
私と同じ感覚の人たちがいるなんて、思ってもみなかった…

再びウトウトしかけた時、またスマホが私を呼んだ。
〝昨日さ、大林晃太って人に合ったんだけど、あんたの同級生じゃなかった？昔そんな名前の好きな人いなかったっけ？まだ独身っぽいよ、連絡取ってみたら？〟

姉だ…確かに大林晃太は同級生だったし、昔好きだったし、学生時代に告白もした。けど、その時は彼女いて。就職して再会して仲良くなって酔った勢いでまた告白なんてことも、したことある…けど。
〝あいつ彼女いる〟と返信。

寝かせてくれよ、ホントに…
全くどうしてこう余計な世話を焼こうとするのか。
私の幸せは私にしか分からないんだから、ほっといてくれ…

またもやスマホが私を呼ぶ。
〝お休みのところご免なさい！仕事とは関係ないのですが…山梨出身の友人の実家が農業やってて、そこの二男に良い人いないかなって。島根に住んでます♪〟二男の写真付き…

職場の同僚だ。

えーと、あれですか？
人身売買が流行ってるのかな？
ワタシイマトウキョウ、カレシマネ？
チョットイッテルコトワカラナイ。
私が島根に嫁に行ったら巨額の富が手に入る、
的な？
だいたいさ、私が〝えー！めっちゃタイプ！今すぐ仕事辞めて島根に嫁ぎますぅ！！〟なんて言い出してマジで仕事辞めたらどうする気なんだ？
断られること前提で提案されてるよな…

〝今募集してないんで、ごめんね〟と返信。

全くよぉ…貴重な休日の朝だってのに…

お？おいおいおい、今度は誰だ？
私をどこの誰かも分からん奴に売り飛ばそうとしてる奴は？！

〝久しぶり。大林です、あのさ今度の…〟

えーと…
イヤな予感しかしなくてスマホ開けません。

スマホを遠くへ追いやって
深く深く布団の中へと潜り込んだ。