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パリ5月革命、再び?

 フランスでは27日にパリ近郊のナンテール市で発生した17歳のアルジェリア系少年が警官に射殺されたことを契機に、抗議のデモや暴動が全土で発生している。

 パリ5月革命は、1968年3月22日パリ大学ナンテール校の学生が大学の管理強化に反発して校舎の一部を占拠したことが契機になり、5月3日にソルボンヌで集会中の学生と警察が衝突し、5月10日にはカルティエ・ラタンが学生により占拠された。ナンテールが契機となった点では今回の暴動と1968年の革命には共通点がある。

パリ五月革命で   https://twitter.com/uK2j8PDMhd.../status/1071255856409235456


 フランスの大学は1968年、大学生の数がその10年前に比較すると、17万5000人から50万人に増加していた。世界ではビートルズなど若者カルチャーが盛んになっていたが、フランス政治は権威主義的、階級的、伝統に深く根差し、高齢の世代が支配しているように若者たちには見えた。ドゴール大統領は政権の座に就いて10年目にあったが、ドゴール大統領はアルジェリア戦争(1954~62年)の最中に第4共和制が崩壊し、憲法の手続きに拠らないで、大統領の座に就いたため、独裁政治の下に置かれていると若者たちには考えられた。またフランスの植民地であったベトナム戦争の絨毯爆撃やナパーム爆弾の使用、米軍によるベトナム市民殺害の映像などはフランスの大学生たちを反政府運動の前衛に立たせるようになっていた。

 労働者たちも学生の動きに呼応して、5月13日に労働者のゼネストが行われ,パリは「解放区」のようになっていた。さらにルノー工場などの労働組合では既成の労働運動の指導に拠らない工場占拠運動となっていった。作家や知識人たちも様々な形で、学生や労働者たちの運動に呼応していった。ドゴール大統領は、議会解散などで事態の鎮静化を図ったが、1969年4月に、11年近く続いた大統領の座から引き下がることになった。

 歌手の加藤登紀子さんは「学生たちが自由の旗を掲げた『パリ五月革命』は、遠きパリ・コミューンを思わせた。」と語っている。1968年は、チェコスロバキアの民主化運動「プラハの春」を軍事力で制圧し、フランスでは「5月革命」があり、大学の改革、ベトナム反戦、労働者の管理問題の改善が唱えられた。米国では4月にキング牧師暗殺事件があった。加藤登紀子さんも、世界で「戦争と平和、自由を求める人たちとそれを圧殺しようとする力」があった1968年を歌手生活の始まりの年だったと回想している。

加藤登紀子 「美しき五月のパリ」 https://www.tokiko.com/discography/view/54


 ビートルズのジョージ・ハリスンは、世界にもっと愛があれば、過ちを乗り越えられると考え、「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」を作った。この歌の動画は、

https://www.youtube.com/watch?v=bI8P6ZSHSvE

 にあり、和訳の一節は下の通りだ。

世界を見れば、変化している事に気付く
僕のギターが静かに涙を流している。
どんな過ちからも、僕達は学んでいくべきなんだ
僕のギターが静かに涙を流している
(和訳はhttps://lyriclist.mrshll129.com/beatles-while-my-guitar-gently-weeps/ より)

 フランスではサルコジ大統領が移民の若者たちを「社会のくず」と形容したこともある。現在のマクロン大統領はフランスのイスラムをフランスの価値観に合った啓蒙主義的なものに変えると語っている。フランスの政治指導者たちのイスラムを見下すような発言、あるいはフランス国内のムスリム移民たちの生活ぶりが一向に改善されないこと、さらにムスリムやアフリカ系移民たちの教育や就職機会も限られていることはフランスのムスリムやアフリカ系住民たちに疎外感を与えてきた。

 下のフランスの詩人ポール・エリュアール(1895~1952年)の詩はナチス・ドイツの占領時代、ドイツ軍の将校と交際し、フランスが解放された後にフランス人たちのリンチにあった若い女性たちを詠んだ「その気があれば理解せよ」と題するものだ。

その気があれば理解せよ 私の悔恨、それは
舗道の上に取り残された その不幸な女性
服を破かれた 思慮あるその犠牲者 迷子になった子どものようなまなざし
冠を奪われ、顔が歪んでいる 愛されたゆえに命を落とした
死者に似た彼女 一輪の花束が添えられて(後略)
(訳 村野瀬玲奈)

 フランス政府は、暴動を起こす若者たちの心情を理解し、改善できることに着手しない限りこの種の暴動が繰り返し起こり続ける可能性があることは否定できない。若者たちの疎外感の問題は時折通り魔事件などが発生する日本も無縁ではなかろう。

フランスは移民がいなければ勝てないですね カタールW杯欧州予選のカザフスタン戦に臨むフランス代表=2021年11月13日、ロイター https://www.asahi.com/worldcup/2022/team/france/

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