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対テロ戦争の失敗がもたらしたISの活動は継続する ―パキスタン南西部テロ

 9月29日、パキスタン南西部バロチスタン州マストゥングにある市場で自爆テロが発生し、少なくとも51人が犠牲になった。テロで狙われたのはイスラムの開祖・預言者ムハンマドの生誕を祝う行進だった。預言者の生誕祭(マウリド、ヒジュラ暦第3月12日)は、イスラム誕生当初からあったわけではない。ファーティマ朝(909~1171年、主要支配地域はエジプト、北アフリカ)時代後期から始まった。やはりエジプトやシリア、イエメンなどを支配したアイユーブ朝(1169~1250年)時代にスーフィ(イスラム神秘主義)教団の儀礼となり、イスラム地域全域に普及していった。

CIA、タリバン、どちらがテロリストか?ドローン攻撃の犠牲者に尋ねてみろ


 パキスタンのテロ発生件数は、South Asia Terrorism Portalによれば、アメリカの対テロ戦争がアフガニスタンで始まる前年の2000年にはわずか65件であったのが、テロ戦争が進行すると増加傾向をたどり、ピークの2012年には2743件と暴力に歯止めがかからない状態になった。アフガニスタンでの戦争が国際的な焦点でなくなると、次第に減少したが、しかし2020年代に入ると、また増加傾向にある。今年は9月26日までに354件発生している。

イスラム教徒ではない  グレース・ケリー https://www.pinterest.jp/pin/938367272333348897/


 パキスタンはオバマ政権のドローン戦争の中心にあった。オバマ政権一期目初年の2009年には54回に及ぶ攻撃があり、さらに2010年にはCIAによるドローン攻撃は128回となり、少なくとも89人の市民が犠牲になった。パキスタンでのテロが2010年代前半に著しく増加したのは、アメリカによるドローン戦争も重大な要因となったことは間違いない。ドローン攻撃はアメリカ国内での法的手続きも曖昧で正当性に薄く、パキスタンの主権を侵害するものだった。反米感情が過激な武装集団の主張や活動の追い風となった。他方、アフガニスタンでは米軍が撤収すると、テロの発生件数は年々減少傾向にある。もっともアフガニスタンでのテロは米軍を対象とするものが多かった。

パキスタンのテロ発生件数は、South Asia Terrorism Portalによれば、アメリカの対テロ戦争がアフガニスタンで始まる前年の2000年にはわずか65件であったのが、テロ戦争が進行すると増加傾向をたどり、ピークの2012年には2743件と暴力に歯止めがかからない状態になった。


 29日は、パキスタン北西部のカイバル・パクトゥンクワ州ペシャワール近郊のモスクでも爆発が起こり、少なくとも4人が死亡したが、パキスタンの武装集団「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は事件への関与を否定している。TTPはアフガニスタンのタリバンにも接近し、アフガニスタンのタリバンはパキスタン政府と対立するようになっている。

 マストゥングでのテロはIS(「イスラム国」)の犯行と見られている。ISがイラク北部やシリア東部を支配していた時、預言者ムハンマドの生誕を祝うことはイスラムの正しい道からの逸脱(ビドア:有害な革新)として否定して禁じていた。こうした考えはサウジアラビアの国教であるワッハーブ派の影響を受けるもので、パキスタンではISの支部である「パキスタンIS」や、そのライバルである「ISホラサーン州(ISKP)」が活動し、「パキスタンIS」はバロチスタン州で活発で、カイバル・パクトゥンクワ州でのテロは同州で強力なISKPによって行われたという説が有力だ。

 パキスタンは、昨年4月、イムラン・カーン首相が議会の不信任投票で辞任を余儀なくされ、また今年5月にカーン氏が逮捕されると彼の支持者たちによる暴動が全土で発生するなど混乱している。

 ブッシュ大統領が中東に自由や民主主義をもたらすと言ったのとは真逆に南アジアなど中東イスラム世界はいっそう物騒になり、残虐非道なISのような武装集団の誕生をもたらし、ブッシュ政権は、国際法を無視し、また国連の手続きに寄らないでイラク戦争を開始したが、それはプーチン大統領のウクライナ侵攻のモデルにもなった。日本の政治がタカ派的傾向をもつようになったのも対テロ戦争を支持した小泉政権以降のことで、アメリカに軍事的に協力する姿勢がいっそう顕著になった。岸田政権が防衛費を倍増し、世界第3位の軍事大国になろうとするのもその傾向の表れだ。世界第3位の軍事力も、莫大な経費をかけて行おうとする万博も国民の福利とは関係なく、2022年の政府純債務残高(対GDP比)ランキングでは、世界1位が日本(261.29%)で、日本は借金大国となっている。

なぜ私の家族を殺したのか?イエメン・サナアで。2013年11月。https://world.time.com/2013/12/20/u-s-officials-drone-strike-that-hit-yemen-wedding-convoy-killed-militants-not-civilians/?fbclid=IwAR10LR4z2SDBWP_ZHtwEgRL83L3NIsvxkDBdJOYZdh_pu_5WES2e3oJBsH4

アイキャッチ画像は29日、パキスタン南西部クエッタで、搬送される爆発の負傷者=ロイター
https://www.yomiuri.co.jp/world/20230929-OYT1T50283/


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