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忘れられない不思議な話 / あしか祭り

なぜだかずっと忘れられない話がある。

それは村上春樹の「カンガルー日和」という短編集の、「あしか祭り」という話である。

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1983年刊行。色褪せてる。

著者らしい、よくわからない(褒めてる)作品だが、あらすじを簡単に書いてみる。

主人公の男性は、ある日新宿のバーで隣に座った「あしか」にうっかり名刺を渡してしまう。

たとえ、どんなに酔っ払っていても、新宿のバーで隣に座ったあしかに名刺なんて渡すべきではなかったのだ。

カンガルー日和より

その名刺をもとに、一匹のあしかが家に押しかけてくる。あしかにはどうやら頼みたいことがあるらしく、言葉巧みに援助をねだってくる。

「このように突然お伺いいたしましてお願いというのも誠に心苦しいのですが、これも名刺のとりもつなにかの縁ということで……」
「ええ、たいしたことじゃないんです。まあいわばあしかという存在に対する先生の象徴的ご援助を頂ければ、という程度のことなんです」

カンガルー日和より

話を聞くと、「あしか祭り」というイベントの開催を目指しているらしい。これは、世界にとって微小な存在だと思われているあしかの地位を高め、「あしかルネサンス(=再生)」を目指す活動だという。

主人公はあしかのしゃべり方(典型的なあしかレトリック)に疲れ果て、精神的援助(ふつうに寄付)をしてしまうという話だ。

あらすじをみると、やっぱり意味がわからない。
わからなすぎて、Yahoo知恵袋に「どういう意味なのか教えてもらえませんか?」という質問があったり、「〇〇のメタファーだ」という考察ブログがあったりする。
(実際、寄付すると会報誌が届く描写があったりする。)

それでも、なぜこの話が好きなのかというと、「あしか祭り」自体がすごく気に入ったからだ。

あしか達があつまって、あしかルネサンスを目指す祭典。ちょっと(だいぶ)あやしいけど、それってどんなお祭りなんだろうと想像する。

寄付金を募るぐらいビジネス感のあるお祭りなので、たとえば品川プリンスホテルみたいな格式高いホテルで行われるのではないか。

毛足のながい絨毯の広間で、権威あるあしか達をあつめたパネルディスカッション(あしかルネサンスに必要なファクターは何か、みたいな……)が行われる。

おいしいワインやチーズ、クラッカーがタダでいただけるかもしれない。あ、もしかしたら「あしか」だから魚メインの前菜かもしれないなぁ。

そういうことを考えていると、この話のことを忘れられなくなってしまった。

もしかしてわたしは、意味のわからないことが好きなのかもしれない🛁

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