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【だれかのじかん】藤村公洋さんの巻

「最近、何してる? 何してた?」という話を、いろんな人にユルーく聞いてみたいと始めたインタビュー、今回が2回目です。
「美尾りりこさん」の巻、たくさん読んでいただいてありがとうございました。
今回は都内在住のバーテンダー・「藤村公洋さん」のお話です。赤いベスパに乗っていて、猫(15歳)を飼っている藤村さんの2020年、今日この頃の記録。

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― 自粛生活はいかがですか。普通ですか?

普通ですよ。毎日楽しいです。お金の心配さえなければ、ずっと続いてもいいかなって思います。

― お仕事への影響は?

もちろんありますね。店が営業してないですから。でも僕はフルタイム勤務ではないし、経営者はもっと大変と思います。僕も大変といえば大変ですが、補助金の制度をオーナーが使ってくれていて報酬の8~9割くらいは貰えてます。実際にはまだ店に支払われてないらしいですが。

― じゃあ、とりあえず生活できますね。最近は何をされてますか?

野菜を植えたりしてます(笑)。去年引っ越してきた家に畑があるので、今年は種から植えました。

― 今は、何が育ってるんですか?

ナス、オクラ、小松菜、ニラ。小松菜とオクラだけ芽が出て、ナスとニラは音沙汰がありません(笑)。飼ってる猫が畑にも行くので栄養剤や肥料を使えず、生育はそれほど良くないです。今回は種からなのでキツイですね。まだまだ収穫なんてできるかどうかも分からない。

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― 時間があるから、種から始めたんですか?

去年は苗を植えたんですが、1苗250円でした。種は同じ値段でいっぱい入ってて原価率がいいなと思って(笑)。
僕はラジオ番組をやっていて、一緒にやってる相方も畑をやってるので聞いてみたら「そんなに蒔いちゃダメ」と言われました。種一袋だと農家の人が使うくらいの量らしい。小松菜やオクラはいっぱい芽が出すぎて間引きしました。

― 試行錯誤ですね。

そう、結局うまくいかずに苗を買ってきて植えるかもしれないです。

― 最終的には八百屋で買ってくることもできますしね(笑)。

そうですね(笑)。楽しみというより食糧確保のためにやりたかったんです。だから、しょっちゅう食卓に上がってるようなものを選びました。収入がないなら食料確保しなきゃと。
アキ・カウリスマキの映画『過去のない男』で、記憶喪失になった男が住むところを与えられ「ジャガイモが育てば飢えることはない」と、家の前にジャガイモを植えるんです。それを思い出して去年から始めました。全然収穫できないけど。

― 最低限の食糧があれば安心ですもんね。他には何をしてますか? ベスパでおでかけ?

そうですね。最近は左胸のポケットにiPhoneを入れて、乗りながら動画を撮ってます。左しか映らない(笑)。右はアクセルブレーキ、左はギアチェンジするので左が楽しいんですよね。
畑も動画も自分で楽しんでるだけです。あ、Instagramを7年ぶりくらいに始めました。「自撮りだけ」と決めて撮ってます。それもまた楽しくて。

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― なぜ始めたんですか? 自撮り棒とか使って?

100均の三脚でセルフタイマー。うーん、今は映画館へ行けず、配信とかも見ないので映画が見られなくて、自分で自分を見て楽しむのもいいなと(笑)。

― 映画の代わりに?

そう。それができたら映画なんて要らないと思ったりします。試しにやったら結構楽しい。ベスパの動画を自分で見ても、乗るのとまた違う楽しさがあり「こんなに危ない感じなのか」と思う。客観的になって、娯楽的な楽しさに気づきました。自分主演で撮る。映画監督なら誰とも会えなければそういう手段も取るでしょうね。僕はできないけど、外に出られない間そうやって楽しむのもいいかなと思ってます。

― セルフドキュメンタリー的な。効率は良いかも。楽しいことを探すのが上手なんですね。

僕は一人っ子の鍵っ子だったので、一人でいるのは全然苦じゃない。この生活になって、なんか懐かしいなと思います。

― 久しぶりだから楽しいんですか。

そう。中学生の頃、ラジオDJになりたいと思ったこともあったんです。家でレコードをかけながらマイクに向かって自分で書いたハガキを読んで録音してた。今も同じような感じだと思いました。自分で自分を楽しませるのは、わりと慣れてる。

― なるほど。そういえば私も録音ごっこはやりました。

リクエストを自分で書いてね。自分が持ってる音楽しかかけられないから、リクエストもそれになる(笑)。
今、僕は「渋谷のラジオ」という番組をやってますが、先日は自宅で電話収録だったんです。CDや資料を脇にスタンバイして臨んで「あ、中学生の時みたい!」と思った。「ここに戻ってきたぞ!」と、すごく楽しかったです。

― 中学生のラジオが本物に。すごいレベルUPですね。

そう、あの頃の自分に教えてあげたい。楽しかったです。そういうことを昔からやってた。

― じゃ、辛くはないんですね。

結構みんな「辛い」って言いますよね。「早く飲みに行きたい」「皆に会いたい」とか。そういうのはあんまりないですね。もともとこんな生活だから、変わらないんです。

― 私も「逆にいろいろ良いこともあるなぁ」と実は思うこともあります。でも3月あたりは不安でしたね。先が見えず、どうなっちゃうんだろうと怖かった。

そうですね、でも我々には猫がいるじゃないですか? 猫がいると、どってことないなーと思うんです。猫は生きていく術を知っていて、自分を自分で幸せにする天才だと思う。猫を見てるとちょっと安心します。

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― (笑)じゃ、生活は困っていないんですね。

はい。「そんなに外に出てやりたいこともないんだな」と気づきました。映画館に行けないのも、慣れちゃうんですよね。
結局、人はいろんなことを忘れるじゃないですか。うちはテレビがないんですが、先日『時をかける少女』が放映されたのをツイッターのTLで知ったんです。映画の最後で、深町君が未来へ帰る時「未来で会えても、もうその時はお互いに分からない」と原田知世に言うんです。「私はあなたを必ず見つける」と原田知世は答える。でもその後のシーンで二人がすれ違っていく。そこがもう本当にすっごく好きで、放送を見てないのにTLを見てるだけで思い出して泣いてました…。あ、今も泣きそうです(笑)。
やっぱり人は忘れるんだ。忘れるから良いし、切ないし、何もかも、どんな大切なことも大事な人も、忘れるから生きていけるんだと。
僕はバーテンダーなので、バーは大事な場所ですが、バーは真っ先に営業停止だと言われました。皆がリモート飲み会を始めてバーを忘れていく。東京の飲み屋はきっと半減するけど、それはそれで構わない。仕方ないと思ってます。僕にとっての映画館も、もしかするとそういうことかも。寂しいけど、体の中にはもう一生分くらいの物語が入っているので、ずっと思い返していけばそれはそれでいいのかなと思ったりしながら、いや、でも行きたいなとか、いろんな考えが行き来する2ヵ月ですね。

― よく分かります。私もそうです。ずっと前の楽しかった思い出や、あの時はすごく面白かったな…ということだけで一生、生きていける気がしてます。でも、それじゃダメだという気持ちもあります。だから行ったり来たりというのも、すごく分かる。

うん、今日植えた種のことも楽しい。未来への期待ですから。
映画館は一軒もなくしてはいけないと大声で言えないのも、それなんですよね。なくなったら後悔すると思うけど、映画館がなくても困らない人もいっぱいいる。多分バーと同じなんです。でもその人たちも、何かがなくなると困るんでしょうね。お互い様なんでしょう。僕のバーテンダーの仕事も、もしかしてなくなるかもしれない。けど、仕方ないのかもしれない。

― コロナの時代を経て、世の中は変わっていくんでしょうか。

東日本大震災の時、もしかしたら東京はすごく変わるのかなと思ったんです。結局、変わらなかった。今回はわりと変わるんじゃないかと思う。お店がなくなるとか、映画館が半分になるとかの変わり方かもしれないけど、でも何かが変化するなら面白いし、見ていたい。人の流れも変わるだろうし、それで僕の職がなくなったとしても、それはそれで面白いんじゃないかと思う。

― そう思えるのはすごいですね。普通、仕事がなくなるのは大変ですから。

何かしら生きていけますからね。変化は悪いことではない。どうなっていくのか、映画を見るような楽しみ方で見ていたいです。職がなくなったとしても、仕方ない。

― 何かしらで生きていけるというのは、基本姿勢ですか? 変化に自分が含まれてしまうと、なかなかそう言えないと思うので。

自分のことも客観というか、俯瞰で見てるのかもしれない。それより世界が動くなら、その方が大事という感じ。

― 自分の中で、不安より世界の動きが優先されているということ?

うーん…。今は21世紀ですが、20世紀から21世紀でなくなったものはそんなにないと思う。19世紀から20世紀になくなったものはたくさんあると思うんです。でも世界の流れとしてはそれは些細なことで、何を選んで未来に持っていくか、今はその分かれ目の時じゃないかと思う。
それに比べたら、自分のことはないです。何とかして生きていける。
バーの文化は絶対なくしてはいけないという思いも、そんなにないですね。なくなったとしても、世界史としては大したことない。その見方がいろんなものに対してあるのかな、と思っています。

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今は要自粛とされてる街も、そろそろほどけていくのかな。
個人としてのお話をゆっくり聞けるこの企画、私が楽しいのでまだ続けたいなと思ってます。

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