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SaaSで6年働く一人目デザイナーの越境術

こんにちは。SaaSで6年働くデザイナーの宮崎です。本書はスタートアップ企業で働く一人目デザイナーに向けて書きました。 多くの役割を超えて学んだ事業インパクトの出し方について知見を共有します。

わたしの越境履歴|2020年の立ち上げ時が忙しい
株式会社Mobile Order Lab にて飲食バーティカルSaaS「Ordee」を作っています。



越境の価値

■ デザインだけでは事業が伸びない現実を受け入れる

デザインが好きすぎる弊害でしょうか。UXデザインの5段階モデルで言えば戦略〜表層まで関わって、ひたすらに制作して顧客体験を追求していましたが、それだけではゼロイチフェーズにおいて価値提供まで実現できないことが多く、プロトタイプの構想で終わってしまうことも何度かありました。

スタートアップでは、サービス提供するために足りないピースだらけで「デザインやっている場合じゃない」なんて状況が度々ありました。仮説があっても顧客がいないとか(CPF〜PMF)、エンジニアがいないとか、オペレーション回す人がいないとか、キリがありません。

デザインに集中したいが、成立しないなら机上の空論になってしまう。特にスタートアップでは、事業を支えるために『自分の役割を超えた』動きを求められます。でも、それってどうやるの?迷いながら進んできた6年間の答えが、ここにあります。

UI/UXデザインだけでなく、価値提供までの体制構築が不足してるのがゼロイチフェーズ


■ 役割を超えることで、あなたはクリエイターとしてさらにレベルアップできる

デザインに集中したい!・・・わかります。
他の役割なんてムリ!・・・もしかしたら、そんなことないですよ。

成し遂げたいミッションやビジョンを夢見たから、スタートアップにジョインしたんじゃないんですか?

役割を超えることを、ここからは越境と呼んでいきます。初めての環境に飛び込むストレスや恐怖を乗り越えてみてください。どうしても無理だったら辞めてもいいです。

私は越境しすぎて2021年頃にアイデンティティ・クライシスに陥りました。自己紹介では「雑用」「なんでも屋」と自称しており寂しかったです。また、デザインスキルを伸ばしづらい環境にいることを常に悩んでいました。

でも当時の自分に伝えたいメッセージがあります。越境すれば一周強くなってクリエイターとしてレベルアップできると。

越境に苦しむ当時の君へ。


越境の実践例

伝えたいことは以上なんですが、伝わらないと思うので私自身の具体的な越境経験を共有します。

■ フロントエンド開発

プロダクトやWEBサイトにおいて、ReactやVueでHTML/CSSと簡単なJSを実装まで手を広げました。デザインと実装のギャップに悲しんだことありませんか?そんな方にはオススメ。

👍 Good
デザインを意図通りに実現できて楽しいし、プロダクトの品質が劇的に向上します。重要な箇所の顧客体験に直接貢献できます。また、エンジニアにデザイン意図を伝えたり修正してもらうという間接コストを削減可能。さらに、フロントエンドだけでもAPI周りの理解ができると、実装時にどんな挙動になるか想像しながらUIデザインを検討しやすくなります。

😭 Bad
今思えばコードの習得に時間がかかっていたことが、はたして全体最適だったか疑わしいです。エンジニア不足かつ私のWillが強かったため実施させてもらいましたが、エンジニアによるコードレビューが発生するし、エンジニアがコードを書いた方が実作業は早いです。

🤔 推奨度 ※個人的なスタンス
自身のWillと適正、エンジニアと自分の稼働状況、間接コストの多寡によって、越境するべきか判断するのが良いでしょう。


■ セールス同行

ゼロイチフェーズでは顧客理解のため出来るだけ必ずアポに同席していました。セールス担当が話しやすい流れでスライド制作したり、データ分析やプロトタイプを持ち込んでヒアリングも行います。ユーザーに近いところで仕事をできていますか?楽しいのでおすすめです。

👍 Good
実質ユーザーリサーチになります。目の前の顧客の反応を観察し、議事録を取り、インサイトを見つけて、スライドやプロダクトの見せ方を磨いて売れるデザインを目指せました。プロダクトの課題発見にもなるし温度感も掴めて楽しいです。商談の成約率や営業効率に貢献できます。

😭 Bad
N1インタビューをしているようなものなので、工数はどうしてもかかります。往訪であればさらに。メールや電話は今でも苦手ですし、顧客に怒られてしまって仕事が1日手につかなかったこともあります。

🤔 推奨度 ※個人的なスタンス
B向けサービスのデザイナーであれば、挑戦してみるリターンが大きいと感じています。私は当時ほど時間を作れていませんが、現在も行なっています。


■ PdM(プロダクトマネジャー)

プロダクトのコンセプト作り、グロースモデル、NSM、ロードマップ策定、社内外の調整、エンジニアの案件管理など、ディスカバリーからデリバリーまで担当。戦略レベルからチームで議論できていますか?偉大なプロダクトは偉大なチームから。

👍 Good
作り方を作っているので、クリエイターとしてのセンスが高まります。視座が高まります。お金ではなくビジョンやストーリーを描いて、顧客や社内と合意形成して仲間になる楽しさも。事業成果と開発工数の最大公約数を目指して効率的にデザインできるようになったり、チームビルディングや組織作りの重要性を感じられます。

😭 Bad
普通にメンタルやられました。キャパオーバーな案件数、全くデザインの手を動かさず会議だけで1ヶ月経過してしまう生産性の低さに嫌悪したり、謝罪しまくったり、などなど

🤔 推奨度 ※個人的なスタンス
できるならPdMを経験するのをおすすめしますが、領域が無限に広がってしまうと注意です。社内にPdMがいる場合は得意領域ごとに分担するのが良いです。


■ CSとキッティング

ゼロイチフェーズの1年程度、タブレットやプリンターなどの機材を初期設定(キッティング)して梱包発送する業務と、カスタマーサポートを担当しました。ユーザーからの問い合わせ導線や対応マニュアルを構築したり、電話を取ったり、現地に訪問して機材トラブルを解消しました。ユーザーの声を多面的に回収できていますか?一元的な指標だけでラクをすると、あとでツケが回ってくるかも知れません。

👍 Good
当然ですがユーザー理解が捗ります。フットワークの軽さが手に入ったかも知れません。

😭 Bad
めちゃくちゃ時間がかかりますし、クレーム対応はメンタルにきます。

🤔 推奨度 ※個人的なスタンス
一定の課題発見や体制構築が実現できたら離脱が良いでしょう。外から観察するだけでも効果があります。


■ 余談、マーケティング

越境履歴に記載しませんでしたが、マーケティングもやっています。
デザインとマーケは「売れる仕組み作り」「ユーザー目線」という観点では同一視しているため切り離せませんでした。どちらも同じでキーワードレベルでは「誰に」「何を」「どのように」といった言葉が頻出します。WEBデザイナーは必須でマーケティングを理解しておくべきですし、UIデザイナーもマーケを理解しておくとジャーニー全体への効力が高まるかもしれません。


越境を成功させる3つの問い

ここまでの越境の経験を踏まえて、事業貢献するために越境するコツをまとめました。


①効果的な場所にいるか?|デザイナーとビジネスマン両方の視点で、越境する場所を可視化する。

自分の役割を超えて課題を見つけよう

監督がカメラマンを兼任する自主制作の映画のように、スタートアップでは名前のついてない業務を誰かが兼任しています。誰も担当していない業務もあります。誰かが落ちてるボールを拾ってくれるとも限りません。

自分でボールを見つけましょう。事業成果を分解したロジックツリーや、ビジョンを実現するための理想のジャーニーを引いてみてください。ビジネスマンとデザイナーの視点を組み合わせることで見つけられる課題が隠れていることがあります。そこが狙い目です。デザイナーの観察眼ならではの課題を見つけること、可視化して組織内に共通認識をもたらすことができます。

全てのボールを拾うことはできません。する必要がありません。転がしておいても良いボールは拾わない意思決定をしておきましょう。ただし、情報の更新が必要です。拾わなくて良かったボールは、事業や組織が成長すると拾うべきボールになっている可能性もあります。


デザイナーとビジネスマン両方の視点について補足します。

例えば、上図のSaaSの月次売上(MRR)をロジックツリーで分解した結果「成約率」が低いという課題があるとします。成約率を高める要素を検討しましょう。社内のセールス担当と話して分解するのも良いでしょう。
こんなことが考えられます。ターゲットとする「見込み顧客」はどんな認識・経路でアポ獲得できたのかカスタマージャーニーに分解して解釈を試みたり、顧客は解決したい課題があって会話してるはずなのでPSFしているのか改善が必要なのか確認してみたり、プロトタイプで更なる課題を引き出してみたり、そもそも意思決定者と繋がれていなかったら担当者の不安に寄り添ってみたり、これらをセールス担当が実施できるように武器としてのスライドを一緒に作ってみたり…などなど、ビジネスマンとしての思考とデザイナーとしての思考が混ざってきます。ユーザーの解像度を上げる過程でインサイトが見つかり、実現できるアイデアも見つかっていきます。

こうなってくると「成約率」を上げるというのは、情報設計や表層はWEBデザイン的でありつつ、プロトタイプや体験設計の深さはUIデザイン的に感じます。つまり、越境するというの総合競技であって、ようやく事業インパクトに繋がってきます。


②効果的な方法をやっているか?|越境するなら守破離で始める。今なら生成AIでスピードアップできる。

自分の役割を超えて課題に取り組むには、リスペクトを忘れずに。

越境には順番があります。まずは『守』で与えられた役割に全力を尽くし、信頼を得る。次に『破』で新しい領域に挑戦し、最後に『離』で成果をチームに引き継いでいきます。

最初はアウトプットよりもインプットの比率が高まります。そこで生成AIです。インターネットが知の高速道路だったら、生成AIは知のカーナビかもしれません。高速道路が分からなくても案内してくれます。ワープホールかもしれません。未知なる知識の習得にかかる時間を圧縮しましょう

生成AIの使用例:
・ドメイン知識の分からない事を聞いてみる(※ハルシネーションに注意)
・アイデアを出してもらう
・仮のインタビュイーとして振る舞ってもらう
・ビジネスマン的な思考(ロジカル、クリティカルなど)を補助してもらう
・抜け漏れや見落としを見つけてもらう
・暗黙知の言語化のために壁打ちしてもらう
など

スタートアップにおいて大事なのは「離」です。体制や知識を作り組織に残し、次へ行きましょう。ゼロイチで属人的に始まった物を属人的なまま終わらせてしまうと、後から人が増えた時にゼロイチでの設計や学びが継承されないことがあります。必ずドキュメント化しましょう。ドキュメント化しておけば急な引き継ぎも容易です。


③行動できる余力があるか?|正常な意思決定やクリエイティビティには余力が必須。

余力で捉え直す「Fogg Behavior Model」チェックリスト

大前提、メンタルがやられていない事は必須です。休みましょう。仕事量を調整しましょう。自分一人のAbilityで無理ならば助けてもらいましょう。

失敗談として、デザイン制作物が小さくまとまってしまう自分が居ました。開発効率の良いUIデザインを設計するだけなら良いのですが、いろんな領域を越境した結果、どこにどれくらい迷惑がかかるか妄想できてしまって遠慮してしまいました。次の案件があるからと置きに行ったデザインをしたりしました。全く遊びがないのです。これではクリエイティビティを全く発揮できません。

WoWな魔法のような体験を作るにはクリエイティビティが欠かせません。UIデザインやWEBデザインだけでなく、越境する先のプロジェクトでも同じです。そこには余力が必要です。一定の暇が必要です。見直しましょう。

また、他人から余裕がありそうに見えることが、次の越境を見つけるきっかけにもなります。越境先の候補は積極的にサポートしましょう。雑談や相談を増やし、新しい情報を自分の足で仕入れ、新たな「場所」を見つけましょう。


まとめ

どんな場所でも、クリエイティビティが眠っている。

デザインだけで事業が伸びないのであれば、デザイナーとビジネスマンの思考を組み合わせて、新たな課題を発見しましょう。そして飛び込みましょう。生成AIとともに守破離をこなしていく。そこではあなたなりのクリエイティビティが光り輝きます。余力をお忘れなきように。


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