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トラベリング

引きこもり生活といっても普段とそんなにかけ離れたことをするわけじゃないですよね、どうですか?

テレビや映画をほとんど観ないタチなのですが、原作者がわりと好きで、友人もDVDを持っているという、ちょっと昔のテレビドラマがネットで期間限定で無料で見れるとSNSで知ったので、どれどれ、と春先にスマホで観始めたのですが、5~6回分も観たらお腹いっぱいになってしまって、もういいやと途中で止めちゃいました。Netfrixが好きな人とは全然違う時間の過ごし方になるんだろうな。どうしたって本と音楽(とネット)からは離れられず。

子供の頃はよくラジオを聴いてたけど、最近は決まった番組をいくつか聴く程度なのですが、去年の11月に長く泊めてもらった盛岡の友人の影響で、スマホのradikoでこの番組はなんとなくチェックするようになりました。

寒い夜に古民家で編み物をしながらスマホから直に音を出して番組に耳を傾けていた友だちの姿を思い出します。

折しもコロナ禍のこのご時世、旅への想い、旅へと出かけられない焦りが回を重ねる毎に色濃くなっているように感じられて、いろいろ考えさせられます。引きこもるのはそれなりに好きなのですが、旅行は好きな方だと思います。高校生の頃に椎名誠をよく読んで、そのつながりで野田知佑さんの文章や生き方に憧れた影響は大きいかもしれません。村上春樹の旅行エッセイも好きでした。そして若い頃は今よりずっと潔癖だったので、都会や人混みを避けて地方の大学へ進学して、バードウォッチング界に成り行きで足を踏み入れたのでした。倍くらい生きた今は、自然の美しさも都会の猥雑さもどっちも楽しめるので、大人っていいなと思います(二十代の頃と相も変わらず貧乏旅行しかできないのが情けないけど…)。バードウォッチングに手を染めていた時代は、珍鳥を追い求めて日本の僻地へけっこう出かけたし、海外も少々、そして環境アセスメントの下請け調査バイトで現場へと赴き、ワーホリでカナダにも行って悲喜こもごもの体験をしたものです。三十代になってからはバンドのサポートメンバーとして地方遠征に参加できたのもよき思い出です。

自粛生活の必然というか息抜きというか、近所へと散歩に出歩く機会が増えたのですが、狭く深く閉じこもりがちな視界に飛び込んでくる新緑や花々に、大げさでなく心洗われる今日この頃です。

そうやって、身近な自然の中で心をほどいて散歩することを重ねるうちに、環境アセスのバイト生活でまだ時間に余裕があった若い頃、長野に住む友人を訪ねて行って、一人ぼっちで鳥を探して山歩きしたときの記憶があぶり出しのように蘇ってきました。当時は、見る価値のある鳥をちゃんと見つけてそれを人に報告する、そのことばっかりで頭がいっぱいになっていて、緑豊かな山々や美しい景色はまっすぐ心に映らず、内心ひどく息苦しくて焦りがつのるばかりでした。若さ故の問題意識もあり、凝り固まった思いから自由になれなかった。

さらに昔、卒研で所属した動物生態学の研究室の担当教官に、お前は本当にやりたいことがわかってない、と厳しく諭されたことを覚えてます。貧乏な研究室で、出世とは無縁で講師として務めを全うした、酒飲みで頑固で定年間近だった人間味のある先生で、だからこそ、認めてもらえないことが辛かったけど、今となっては先生がそう言った気もちがむしろよくわかる。

結果、鳥の世界からは足を洗って、子供の頃から好きだった図書館で委託の仕事をしながら自分なりに音楽を続けて。人に誇れるような実績は何一つなく、しかもこんな不安だらけの世の中だし、けど今見えてる景色はけっこう悪くないかも、と時折しみじみ噛みしめてます。寄り道ばかりの人生だけど、身近な鳥を肉眼で眺めるだけでこんなに楽しいだなんて、鳥屋を目指してた頃には想像もしなかったよ。

知らない街を一人で歩くのは今でも大好きです。

けど、長いことお気に入りのこの小説の一場面が、ずっと心に残っていて。

小説の終盤、生まれ育った離島からほぼ出たことのない、主人公の友人の親類のおばさんが、「でも、今ならどこにでも行けるのに」と主人公の友人に言われて、「行けるよ。でもね、どこ行っても同じやから」と返すんです。「この島と、それから沖神嶋神社を見れば、世界のことはだいたい知ったことと同じようなもんやろ」って。最後に、少し照れたように「嘘かもしれんね。」って付け加えるところまで含めて、好きです。

(ところで、今この文を書くために書棚から本を取って開いたらば、古い本の匂いがして、これはこれでタイムトラベルみたいなものだなあ…)

去年の11月に盛岡に滞在してから弘前まで足を延ばして、地元料理の食べられる居酒屋に一人で入ったとき、給仕の女の人が私と同じくらいの年でお子さんもいらっしゃって、青森以外に住んだことないって笑ってた。そういう人生も潔くて素敵だなって憧れます。

最後に。travellingと言えば大橋トリオのこのカバーが大好きです。

オリジナルはもう二十年近く前になるんですね。赤い髪の宇多田ヒカルがめっちゃ可愛かったな、と思って見返したら、これがかつてのクールジャパンってやつか…と時代の趨勢を改めて感じずにはいられない、2020年春です。


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