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#82餃子の王道。

「そろそろアニバーサリーが近づいてきたね」

アニバーサリーというのは、テル坊の誕生日とわたしたちの結婚記念日のことです。再婚同士であるわたしたちは、結婚式も挙げていません。二年ほどお付き合いをして、まずは同居からスタートしました。内輪だけの食事会でも開こうと思っていたにも関わらず、世界中がコロナで大混乱に巻き込まれたため、食事会すら行わないままの入籍になってしまいました。一応、お盆と正月にそれぞれの親戚のところへ挨拶に回ったこともあるし、もうそれでいいかなと。ずいぶん適当に済ませてしまったものです。

結婚式がない分、入籍日が結婚記念日になります。入籍日をいつにしようかと悩んでいた頃、どちらかの誕生日や二人の記念日がよいと書いてあるのをネットの検索で見つけました。そうすれば年月が経っても忘れないからだそうです。
「それならテル坊の誕生日に入籍するか」
5月のテル坊の誕生日の方が、11月のわたしの誕生日より先だったというだけの理由で、その日が入籍日となりました。

「何か美味しいものでも食べようか」

あまり外食はしない我が家なので時々でかける先も大体決まっています。回転寿司か丸亀うどんか、安めのイタリアンレストランか。豪華な食事をきめこむという案もありましたが、そこまでの贅沢をのぞむ気持ちも強くはありません。

「いつもとはちょっと違ったものが食べたいね」

テル坊が提案したのは「餃子の王将」でした。アニバーサリーに餃子の王将…。アニバーサリーという言葉にあまりふさわしくないような気もしますが、学生時代、友達とよく足を運んだという餃子の王将に行くことを、テル坊はことのほか楽しみにしているようでした。(黙ってついていこう)わたしは思いました。食べ物の恨みは怖いことをよく知っているからです。こんなに盛り上がっているテル坊に反旗をひるがえすのは、夫婦喧嘩を自らふっかけるようなものだと判断したからです。

車で40分ほどかけて向かった「餃子の王将」。車の中でもテル坊はご機嫌です。

「何年か前に、大阪王将にはいっしょに行ったよね?」(わたし)
「ああ、でもあれとは全然ちがうよ」(テル坊)
「どうちがうの?」(わたし)
「うーん、食べたら分かる」(テル坊)
そんなに凄いのか?同じ王将っていう名前だし、中華だし、チェーン店だし。心の中でそう呟きましたが、口には出しませんでした。夫婦喧嘩に発展する恐れがあるからです。

「予定の時間にお店についても、そこから多分しばらく待つと思うよ」(テル坊)
「え?ほんと?回転寿司でもないのに?」(わたし)
とうとう餃子の王将の看板が見えてきました。
「うわ、すごい車の数」
GW中ということもあってか、広い駐車場はびっしり車で埋め尽くされています。お店の入り口には待っている人が溢れています。
「なんなの、この人気は?」
回転寿しに並ぶのは慣れていますが、まさか餃子の王将で並ぶなんて思ってもみませんでした。

待つこと30分。ようやく席に案内され、メニュー表を広げて何を注文するかの相談です。テル坊のオススメは天津飯。セットにすると餃子と唐揚げ、それから中華スープがついてきます。こんなに沢山食べられるか?でもテル坊もミドリーもセットを注文すると言います。

(どうしよう?単品の天津飯とハーフ餃子にしようか。でももし餃子がすごく小さかったら、物足りないんじゃないのか?)
わたしは自分の注文をどうするか必死に考えました。

(セットの二人には唐揚げがついてくるのに、自分一人だけ唐揚げなしだと悔しい気持ちになるんじゃないのか?)
そうして結局三人とも、天津飯セットを注文することになりました。

「お待たせしました」
まもなく店員さんが、大きなお盆を両手に抱えてやってきました。
「わあ、美味しそう。餃子でっかい!」
六つ並んだ餃子は、ほどよい焼き色がついて、まさに餃子の王道という貫禄です。
「いただきます」
火傷しそうなほど熱い餃子を、フウフウ冷ましながらわたしは餃子にパクつきました。とても美味しい。こんなに餃子らしい餃子をこの値段でいただけるとは、なんと有難いことでしょう。

(ごめんなさい、餃子の王将。これからはもっと尊敬の念をもってお店に伺います)

わたしは心の中で謝りました。天津飯も唐揚げもすごく美味しかったのですが、餃子があまりに大きかったので、ご飯は食べきれませんでした。ささやかなアニバーサリーの思い出がまた一つ増えました。




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