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これからの時代に不可欠な「問いを立てる力」

最近、山口周さん(独立研究者、著作家、パブリックスピーカー)のウェビナーに参加しました。しばらく前に読んだ『ニュータイプの時代』を思い返しましたが、この書籍はここ最近読んだ中で、かなり面白かった一冊です。

山口さんが伝えている内容で特に納得したのは、下記の点です。
・これまでの時代は、様々な「問題」があって、それを解決してくれる「解決策」に価値があった。
・いまは、既に様々な「解決策」があって、解くべき「問題」を発見できることに価値がある。

確かに、私たちの身の回りには、色々なサービスやソリューションが既に存在していて、大概の困りごとは解決してくれます。

しかし、サービスやソリューションを提供する側が苦労してるのは、自社の技術やノウハウを活かして、顧客のどんな困りごとを解決できるのか?という問題の発見です。

問題発見の価値については、アインシュタインもこんなことを言っています。

『もし私がある問題を解決するのに1時間を与えられ、しかもそれが解けるか解けないかで人生が変わるような大問題だとすると、はじめの55分間は自分が正しい問いに答えようとしているのかどうかを確認することに費やすだろう。そして、適切な問いさえ分かれば、その問題を私は5分以内に解くことができるだろう。』

当社(クエスチョンサークル)が携わる組織開発プロジェクトでは、顧客先の職場で実際に起こっている「問題」をテーマにディスカッションしていますが、「問題発見」を重視することの意義について語ってみたいと思います。

問題解決の前に問題発見

アインシュタインが言っていることを、氷山で説明すると、私たちが「問題」だと思っている問題は氷山の一角で、実際はその問題を作り出している真の問題がある(しかし、それは水面下にあって分からない)ということです。

表面的な問題を解決しても、違う形で似たような問題が繰り返し発生することがあります。
つまり、問題解決の前に、まずはその問題を作り出している真の問題を発見する必要があるということです。

例えて言えば、お腹が痛い(問題)ときに、まずは薬を飲む(解決策)ことも必要ですが、薬は一時的な対処療法でしかなく、「悪いものを食べたからなのか?」「体が冷えたからなのか?」「何かのストレスが原因なのか?」と、その問題を作り出している真の問題が発見できないと、根本治療には至りません。

私たちは、問題が発生するとまず解決したくなってしまいます。確かに応急処置としての火消しは必要ですが、一旦火が消えると、それで満足してしまうことがあるのです。

問題発見には「問い」が有効

私たちは普段から、ついつい答えを探しがちです。何か分からないことがあると、答えを探したくなってしまいます。

しかし、「答え」の前には必ず「問い」があり、「問い」に対して「答え」があります。クイズでもテストでも、いきなり「回答(答え)」はなくて、まずは「問題(問い)」があることは想像がつくでしょう。
良い答えを得るためには、その答えを得るために有効な問いが必要なのです。

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例として、遅刻してきた部下との会話を考えてみましょう。

「なんで遅刻したんだ?」と問えば、「寝坊しました」「電車が遅れました」と言い訳が出てくるはずです。しかし、「どうしたら遅刻しなくなる?」と問えば、「夜更かしせず目覚ましを二つ掛けます」とか「電車が遅れても大丈夫な時間に家を出ます」といった、自ら考えた解決策が出てくるでしょう。

上司は部下からどんな回答を得たいのでしょうか?「言い訳を聞きたいのか、それとも解決策を聞きたいのか?」また、上司は部下に何を考えて欲しいのでしょうか?「言い訳を考えて欲しいのか、それとも解決策を考えて欲しいのか?」上司が何を問うかで、部下の思考が変わるのです。 

『Q思考』という書籍の中で、デザイン・ファームIDEOのティム・ブラウンは『How might We?』ということを言っています。

※下記引用 
「How(どうすれば)という言葉は、解決法があることを前提としています。創造性に対する確信を与えてくれるんです。might(できそう)には、アイデアが実現するかもしれないし、しないかもしれないが、まあどちらでもいいじゃないか、というニュアンスがある。そしてwe(我々)は、この課題にこれから皆で取り組むのだ、お互いのアイデアを土台にしていくのだ、ということを示しています。」

例えば、「なぜ新製品が生まれないのか?」という問いを持っても、新製品が生まれない原因は分かったとしても、新製品に関するアイデアが生まれるわけではありません。

一方、「どうすれば新製品が生まれそうか?」という問いを持った方が、新製品を生み出すためのアイデアやエネルギーが生まれてくるのです。

繰り返しになりますが、”何を問うか”で思考は変わります。解決策を考えさせたいのであれば、そういう問い方をしなければならないのです。

「答え」より「問い」に価値がある

また別の切り口から、「問い」の重要性をみていきましょう。

A:5 + 5 はいくつですか?
B:何と何を足せば、10になりますか?

Aは、一つの答えを導くのに有効な問いです。成功の型のようなものがある、これまでの時代では有効な問いでした。
一方Bは、様々な視点を得るのに有効な問いです。正解がなく先が見通しにくいこれからの時代では、より良いヒントを得るための観点が必要であり、それを引き出すための問いとして活用できます。 

かつては情報(答え)を持っていることに価値がありました。ビジネスには成功の型のようなものがあって、知識や経験を持っていることが価値とされてきました。
そのため、経験豊富なベテランや上司が言っていることは、基本的に正しいとされてきました。

しかし、いまは先が見通せない時代。何が答えか分からないためトライもエラーも必要ですし、小さなPDCAを回すスピードが求められます。ただ、ネット社会、AI(人工知能)の進化により、情報は持っていなくても、探せば得られる時代になりました。

そこで、欲しい情報を引き出すための「問い方」が重要になってきたのです。
例えば、美味しいカレーを作りたいと思ったとき、「カレー レシピ」と検索すれば様々な情報が得られます。しかし、「ラーメン ランキング」と検索しても、絶対にカレーの情報は得られません。何を問うかで、得られる情報が異なってくるのです。

なので、これからの時代は情報を持っていることよりも、「問いを立てる」思考力が必要なのではないかと考えています。

経営の神様と言われたピーター・ドラッカーも、「経営における最も重大な過ちは、間違った答えを出すことではなく、間違った問いに答えることだ」と言っています。

どのような問いに価値があるか?

前述の「お腹が痛い」場面や「遅刻した部下」とのやりとりからも分かる通り、問題が起きると、私たちはつい原因を探りがちです。

もちろん原因を探ることも大事ですが、目的が明らかになることで、真の問題が発見できることが多いと感じています。

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具体的な会話を想定してみたいと思います。

例えば、先程の「遅刻した部下」との会話の場合。

上司:なぜ遅刻したの?
部下:寝坊してしまいました。
上司:なぜ寝坊したの?
部下:寝るのが遅かったからです。
上司:なぜ寝るのが遅くなったの?
部下:遅くまで残業したからです。

この場合、遅刻した原因は追究できていますが、本人も残業せざるを得なかった場合、問題の原因が分かったとしても、解決に至らないこともあります。

では、次の会話はどうでしょうか。

上司:ところで、明日の商談はどんな場にしたい?
部下:お客さんにシステム導入後の具体的なイメージをもってもらいたいです。
上司:商談後にお客さんから何て言われたら嬉しい?
部下:新システム導入時の不安が解消できました、と言われたら嬉しいです。
上司:そしたら明日の朝、準備しておきたいことは?
部下:訪問前に、他社の導入事例を用意しておきたいです。

上司は部下に、目的が明らかになるような問いを投げかけています。
このような問いを投げかけることで、本人に翌朝早く出社することの目的が生まれると、遅刻しなくなるでしょう。

この場合、部下が遅刻する本質的な問題は、「残業したこと」ではなく「商談の理想像がイメージできていなかったこと」とも言えるでしょう。

前者の会話では、原因が分かったとしても解決にはつながらない場合がありますが、後者の会話では、目的に向けた前向きなエネルギーが生まれます。スポーツでいう、イメージトレーニングと同じです。

このように、もし何かの問題が生まれたときに、その原因や解決策を問うのではなく、目的や理想像がイメージできるような問いかけはとても有効です。

ありたい姿が描けたときに、真の問題が明らかになるからです。

これからの時代は「問題を作り出す」ことに大きな価値がありますが、本当に解くべき真の問題を発見するためには、ありたい姿を描くような「問いを立てる力」が大きな武器になると考えています。

※本文中に登場した書籍はこちらです


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