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発酵生地の神様・マウロさんのコロンバ

「BUONI DENTRO ブオーニ・デントロ。

ヴァレンタインに購入した、トリノの老舗チョコレート店「クローチ」の、ジャンドゥイオットの箱に書かれている言葉だ。

「おいしいのは中身」、そんな意味。

華やかなパッケージや、おしゃれなコマーシャルをする時間とお金と労力は
全てチョコレート作りに注ぎたい。そう言っていたグイド・クローチさん。
だから箱は素っ気なくても中身はおいしいんだよ。シンプルな箱が、そう伝えてくれている。「クローチ」さんのことをもう少し詳しく、という方はこちらの記事をどうぞ。

シンプルな箱といえば、発酵生地の神様、マウロ・モランディンさんのパネットーの箱も素っ気ないほどシンプルだ。再生紙で作られたザラ紙色の箱にモランディンのロゴ、それだけ。クリスマスっぽく、もっと可愛くすればいいのに、という声にも
「毎年、何千個も僕のパネットーネを食べてくれる人たちが、何千個分のゴミを出すのを想像したら辛くてね」と笑う。

発酵生地の神様って?という方は、こちらの記事をお読みください。

マウロさんの場合、環境問題を考えるのは現代人として当然だから、というのとはちょっと違う。お父さんから受け継いだ100年越しの天然酵母でパネットーネを焼き続けることは、「自然」や「時間」がくれる計り知れない恩恵を見つめ続ける作業でもあった。そんな人生を歩んできたマウロさんにとって、自然を大切にするのは肌感覚、あたりまえのアクションでしかないのだ。

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↑サヴォイア家御用達のパネットーネ職人から分けてもらったという、100年を越すマウロさんの天然酵母の母種。

工房にお邪魔した時に、マウロさんが言っていた言葉を思い出す。
「パネットーネがおいしくでき上がるのは、自然の力に、僕がほんの少し手を貸しているだけ」。

もうすぐやってくる春、そして復活祭には、そんな素っ気ない箱に入ったマウロさんのコロンバがやってくる。コロンバというのはイタリア語で「鳩」という意味だけど、復活祭には平和のシンボルである鳩の形をしたケーキ、コロンバを食べるのがイタリアではお決まりなのだ。

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↑マウロさんの焼きたてコロンバ。真上から見ないと、鳩っぽくないけど。

ちなみになぜ、鳩が平和のシンボルなの? というと、旧約聖書の中の『ノアの箱舟』の物語に由来している。動物たちを船にのせて洪水から避難していたノアは、時々鳩を離しては、地上の様子を探っていた。何度目かに鳩が戻ってこなくなったので、洪水が引いたことを知り、家族と動物たちと地上に戻りました、だから鳩は洪水がなくなった、つまり平和のシンボルとなりましたとさ、というお話。

そのコロンバ、実は生地はパネットーネと全く同じ(マウロさんのところでは配合も全て同じ。他の製菓企業で多少違いを出したりしているかどうかは知りません、悪しからず)。そしてパネットーネではオレンジピールと一緒に干しぶどうとレモンピールを入れるのに対して、コロンバはオレンジピールオンリー。

あの、めちゃめちゃ香りが高くて、めちゃめちゃおいしい、私は別売りの1キロ瓶を買ってスプンですくって食べている! を、粉5,5キロ、卵黄3キロ、母種2キロの生地に6キロも入れるのだ!(パネットーネの場合は、干しぶどう、レモンピールと合計で6キロ。マウロさんの講習会でいただいたレシピより) 

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↑これが自家製オレンジピール。低温で2週間ほどかけて煮あげる。

パネットーネと同じく、ふんわりと高く高く発酵した生地は、オレンジピールだけしか入っていないせいか、よりフレッシュでさわやかな感じの食べ心地。噛めばするっと溶けちゃいそうなほど優しい生地、そして粉と卵の優しい香りとオレンジの鮮烈な香りがミックスされて身体中をかけめぐる。

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↑コロンバ断面図。ケミカルなもの一切なしなのに、こんなにふっくら発酵、自然のパワーに感動するおいしさ。

マウロさんのパネットーネを初めて口にした時、「本当に香料が入っていないの? それなのにこのすごい香りは何?!」と驚かれた人も多いと思うけど、あの香りは本当にすごい。そういえばクリスマス前に、パネットーネをトリノの友人と共同購入した時、友人たちの分を車で運んだら、車の中もあの甘くさわやかな香りでいっぱいになった。コロンバを日本へ空輸してくれる飛行機の中にも、あの香りが充満するんだろうか、なんて思うとニヤケてきちゃう。

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↑こんなふうに、雑な感じだけど(笑)型に入れて最終発酵させると、トップ写真のように膨らんで、そしてオーブンへ。

今年、復活祭は4月4日、日曜日。イタリア中の人々が、羊料理などの復活祭のご馳走とコロンバを食べて、春の訪れを祝う喜びの日。コロナの終わりも祝えたらいいのに、とも思うけど。

そんな春の日には、立派なコートはいらない。だってBUONI DENTRO、中身で勝負なんだから。

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