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確かにあった夏

ソーダ味のアイスのような青空を眺めながら昼寝をしていたようだ。
胸にあるシュワシュワは、夏休みが終わってしまうから感じる味わいのようなもので、負けずに炭酸水で飲み込む。それは乾いた喉を刺すように滑り込んでいく。


家族旅行も帰省もなく過ごす夏休み。

夏の空はいつも青くて、いつまでも青く続く気がして安心して各々好きに過ごす。
空調のきいたリビングは快適な温度で保たれていて、「ずるしたから通報」とか「そんなことするなら遊んであげない」とぷち兄弟ケンカの声が聞こえる中、「さて、なに食べよっか」と衣食住の食の話とともに、明日の予定を考える時間が流れる。



***

めずらしくリビングで夕寝した兄弟。
次男の右手にはこの夏に行った水族館のお土産あざらしのぬいぐるみが抱えられている。
夕刻の空はラムネ色の空色で、やっぱりしゅわしゅわ薄く弾けている。


「静かだね」「そうね」
「今のうちに録画してあるやつ、消化しよっか?」
「なんだったら、ちょびちょびはじめちゃおうよ」


「幸せをふりかえったら、こんな時間なんじゃない?」

しめ鯖と焼売をあてにハイボールを飲む夕食につぶやく夫の言葉にうなづく。
焼売には醤油と辛子派なわたしとソースどばどば夫。
違くても全然良い。美味しいねってそれぞれ食べるの。

「おれ、線香花火好きなんだよね」と兄弟が言うから手持ち花火で最終日をかざる。
儚さ、そんな言葉が浮かんでくるけど、「なんで好きなの」って聞くと「そっとしておかないと消えちゃうから、それを最後まで見るのがやったーって思うから。それにさ、きれいじゃん」そう笑う子どもの顔は、確かにそれぞれわたしと夫に似ている。

や、似てなくても良いんだ。
一緒に居られる時間を大切に思う気持ちを抱いて、これからも過ごすだけ。


書いてしまう気持ちってなんだろう、いつもそう思う。
すっごく読んでもらえるわけでもないし、それこそモーニングページでも、メモ帳にでも書いておけばよい気持ちを残そうとする。
欲張りなんだよな、この気持ちをとっておきたいなんて。

疲れて、誰にも会いたくないそんな気持ちのとき。
そんな時は、寝室に滑り込む。

夫がわたしの好きなセブンイレブンのアイスコーヒーを素手で抱えて帰宅する。

「君が好きだから」の君にかかる言葉は、どっちなんじゃいって思いながら、ありがとうって思う。

この気持ちを忘れたくないって思うわたしは、やっぱり欲張りだなって思うけど、忘れたくないなら忘れないままいてよし。
そう、心の中で叫んでいるのだ。


***

手持ち花火の最後はやっぱり線香花火で終える。

儚さ、でも確かに光るこのひかりを大切にしたい、一緒に過ごす時間はまだ続いていくのだ。


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夏の思い出

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