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ねむらない夢

暑いねって言っても涼しくなるなんてことはないのに、その言葉を何度も口にしてしまうくらい暑い日。
仕事はおやすみだもんね、と文庫本片手にベッドに潜り込む。



やっぱりうまく言えそうにない思いが胸にある。
出せたら楽なのにな、確かに思いはあるのになと、それこそお皿を洗うときとかお風呂で髪を洗う時とかに思う。
それでも日常は淡々と過ぎ、夜がきて「もう寝る時間よ」なんて子どもに声をかけて一日を終えるんだ、今日もまた。


***

昼食後のお供に選んだ本は吉本ばななさんの「白河夜船」
「眠る」がテーマのこの本を選んだ時点で、昼寝する気持ちではいたのだろう、深層心理的にも。

いつから私はひとりでいる時、こんなに眠るようになったのだろう


そんな美しい一文ではじまる作品。

夜の眠りは外の世界を遮断するかのごとく、暗い奥の奥の世界へと導くような眠り。
それが嫌で、飲み込まれまいとあらがって抵抗しようとして不眠になる気持ちもわからなくもない。

そもそも眠りで入るスイッチのオン・オフとはどちらをさすのだろうか。

眠ることで意識のスイッチオフしていると思ってみるのと、眠ることでオンしていることと、どちらが正しいかなんて誰にもなにも言えやしない。

眠りでオンするスイッチはいったい誰と繋がるのだろうか、亡くなったお爺ちゃん?それとも一番会いたい人?それとも自分の中にいる小さい女の子なのかしら。

***

うとうとと浅い眠りなのが昼寝っぽい。頭の中に映像があってミニシアターを見ているようだ。
目が覚めると、窓から白い光、青いバスタオルが揺れている。
あ、寝てたんだなって体を仰向けの姿勢に戻す。
安心安全絶対基地で思う夢はなんて甘いのだろうか。
その甘さを守りたくて、妻や母の顔で生きているのだろうか。


***


やっぱりうまく言えそうにない。うまく言葉にしようとすればするほど、うまくってなにと、ささやく声が聞こえる。
驚いて辺りを見渡しても、聞こえるのはクーラーの空調の音だけ。
じっと手を見る、その手を胸にあててみる、鼓動を感じる、早く出せよと動きはじめる。

知ってる…そう小さく呟くことしかできずに、本の続きに目を落とす。

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