#読書感想文〜物を書く女
こんにちは。
本日は、本の感想です。
「この父ありて 娘たちの歳月」
梯 久美子・著(文藝春秋 2022)
「書く女」と、その父親との関係に焦点を当てた、評伝集です。
9人の「書く女」が取り上げられています。
渡辺和子
齋藤史
島尾ミホ
石垣りん
茨城のり子
田辺聖子
辺見じゅん
萩原葉子
石牟礼道子
昭和を生き抜いた女流作家がずらり。
著者の梯久美子さんは、骨太のノンフィクション作家で、気になっていたのですが、どの作品も大作すぎて、なかなか手が出せずにいたのでした。
この本は、日経新聞の土曜版に連載されたもので、作家ごとにコンパクトにまとめられているので、短時間読書にピッタリでした。
とはいえ、中身はどっしりとしていて、丹念に取材されて書かれているので、読み応えがあります。
上記の作家たちの父親世代は、まさに時代を象徴していて、
有名、無名を問わず、昭和の時代のうねりに飲み込まれたような生涯を送っています。
そして、女である娘にも、しっかりとした、自立を促すような教育をしていました。
娘たちは、そうした父親の人生を引き受けるように、作家になり、自分の中に父親の血を感じながら、テーマを選び、作品を書いていることがうかがわれます。
最後に取り上げられた作家、石牟礼道子は、水俣病に関する著作で有名ですが、若い頃は、自殺を繰り返していたとのこと。
そんな彼女が、88歳の時に、自殺について語った言葉が印象的でした。
「虚無的な気持ちが小さい頃からありました。なぜ死にたいか。ひとつには、この世が嫌でね。今も嫌ですけど。よく我慢して生きてきたなと思う。悲しい。苦しい。それを背負ってゆくのが人間だと思う。嫌でたまらないから、ものを書かずにいられないのでしょうか」(262ページ)
昭和の時代に、女が物を書いて発表するのは、それなりの覚悟がいることで、半端な気持ちではできなかっただろうと思います。
良い読書でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?