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我々はどこから来て、どこへ行くのか

 旧ブリヂストン美術館が改称し、昨年リニューアルオープンしたアーティゾン美術館で、2021年10月2日から始まっている「ジャム・セッション M式「海の幸」─森村泰昌 ワタシガタリの神話」を見た。

 先月訪れた、東京都美術館での「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」の流れから、アーティゾンで現在行われている展示のうち、お目当ては「石橋財団コレクション選 印象派ー画家たちの友情物語」のほうだったのだけれど、順路に従い森村泰昌展から先に。

「ジャム・セッション」は石橋財団コレクションと現代美術家の共演です。その第2回目に迎えるのは、森村泰昌。森村は、1985年、ゴッホの自画像に扮するセルフポートレイト写真を制作して以降、今日に至るまで、古今東西の絵画や写真に表された人物に変装し、独自の解釈を加えて再現する「自画像的作品」をテーマに制作し続けています。
以前から石橋財団の青木繁作品に密かな想いを寄せていた森村が、改めて《海の幸》(1903年)と本格的に向き合い、当作品が制作された明治期以降の日本の文化、政治、思想などの変遷史を“森村式”、略して“M式”「海の幸」として形象化し、青木への熱い想いを新たなる作品シリーズへと昇華させます。


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青木繁《海の幸》1904年、油彩・カンヴァス,70.2cm×182.0cm 
石橋財団アーティゾン美術館蔵

 国の重要文化財でもある、青木繁《海の幸》。これをテーマに今回、森村泰昌が《M式「海の幸」》として再構築したシリーズ作品10点に描かれる人物85人は、すべて森村本人の”扮装”でありセルフィーだ。

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 今回の展示ではシリーズ作品を制作するプロセスも紹介されている。構想スケッチやいくつものジオラマ、習作、細かなメモ、といった資料から、扮装に用いた衣装や小物、定点カメラで捉えたセルフメイクなどの制作風景の映像も見ることができ、制作過程とその扮装への情熱に圧倒される。

 何より、一番最後に御覧くださいと案内があった《ワタシガタリの神話》という映像作品は、青木繁に扮した森村泰昌が一人キャンバスの前に座り「青木さん」と切々と語り続けるもので、背筋が寒くなった。

 私は、あれこれ語り続ける姿が、独白なのか語りかけなのか青木繁なのか森村泰昌なのかだんだんその境界が曖昧になってきたとこに「我々はどこから来て、どこへ行くのか」という問いかけで混乱してしまった。海から来て海に還る、いや、本当にそう……?そのうち、人間の存在や、自分と他者の存在が曖昧になり「あ、やばい」と思う感覚に突き落とされ、映像が終わってもしばらく動けず、座り込んでた。

 アートって、ときどき怖い。

 この展示にあわせ、アーティゾン美術館の土曜講座で、森村泰昌さんご本人による展示の案内動画が明日から公開されるという。正直なところ、展示のなかで、いくつか不思議に思うことやわからない部分が残っているので講座は楽しみにしている。

土曜講座―ジャム・セッション 森村泰昌
ジャム・セッション 森村泰昌 M式「海の幸」の土曜講座第1回目は、アーティスト・森村泰昌さんによるご講演を予定しておりましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、無聴衆で収録した動画を、アーティゾン美術館公式YouTubeにて公開する形で開催いたします。森村さんご自身によるご案内で、同展展示室内部の様子をお楽しみいただけます。


 このあと「石橋財団コレクション選 印象派ー画家たちの友情物語」で息を吹き返した。こちらについてはまた別で。

 訪れた次の日、丸一日アーティゾン美術館のwebサイトが全てダウンしていた、前夜に起きた大きな地震が関係あるのかないのかわからないが、ちょっと驚いた。

 私はなかなか運が強い。



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